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ここは都内にある十文字(じゅうもじ)商店街。ここは終戦後すぐに形成された商店街だ。終戦直後は多くの人々で行きかい、高度成長期には多くの店が立ち並んでいたという。八百屋、魚屋など、多くの店があった。だが、この近くに大きなショッピングセンターができ、そこに客が移ってしまい、この商店街を訪れる人は少なくなった。そんな中で、店は次々と閉店になり、商店街は老朽化が進んでしまった。その結果、ここはシャッターの閉じた店ばかりが並ぶ、いわゆるシャッター街になってしまった。今ではもう商店街という存在すら消え失せようとしている。だが、入り口にははっきりと商店街の看板があり、それがここが商店街だという事を証明している。だが、それも名ばかりだけのように見える。
そこに、1人の男がやって来た。ビデオカメラでその様子を撮っている。彼の名は誠一郎(せいいちろう)で、YouTubeでは『ナミキ』と言われるYouTuberだ。登録者は10万人代で、多くの人が彼の動画を視聴している。彼が撮っているのは、日本全国のさびれた風景で、好きな人はよく見ている。
「さて、今回はシャッター街、十文字商店街にやってきました。この商店街は、終戦後すぐにできましたが、この近くにショッピングセンターができたため、多くの客がそっちに流れ、客が少なくなったため閉店する店が多くなり、そしてここはシャッター街になりました。今では、数件が営業しているだけです」
誠一郎はその風景をビデオカメラに収めている。この動画も多くの人が見てくれたらいいな。
「このシャッター街には多くの人が来ていましたが、みんなショッピングセンターに行ってしまいました。昔は多くの人が来ていたんだと思ったら、栄枯盛衰を感じます」
辺りにはシャッターの閉まった商店街が多くみられる。もう何十年も前に閉店した店ばかりで、その時から時が止まっているようだ。とても懐かしい風景で、栄光盛衰を感じる。誠一郎はその風景を食い入るように見ている。
「えーっと、ここだったかな?」
誠一郎は探していた。この辺りに喫茶店があるはずだ。ここのご主人さんは賑やかだった頃からいて、ここの栄枯盛衰を見てきそうだ。この人に聞いて、ここがどんな商店街だったのか知りたいな。
と、誠一郎は1件の開いている店を見つけた。どうやらここがその喫茶店のようだ。疲れたので、ここで一服をして、ここの昔話でも聞けたらいいな。
「まだ営業している店がありますね。尋ねてみましょう」
誠一郎はその喫茶店に向かった。喫茶店には客がいない。この商店街自体に来る人すら少ない。どうしてここで営業しているのか、疑問に思うほどだ。
「お邪魔しまーす」
「はーい」
誠一郎は喫茶店に入った。店内は40年ぐらい前っぽい雰囲気だ。喫茶店には誰もいない。店内にはFMラジオの音が聞こえる。とても寂しそうだ。
「ここってさびれてるでしょ?」
「うん」
誠一郎はあたりを見渡した。そこには、昔の十文字商店街の風景の写真が飾られている。それらは、店主が集めたと思われる。そこには、十文字商店街を行きかう多くの人が行きかっている。このころにはシャッター街になると想像できなかったんだろうか?
「昔はもっと賑やかだったんですけどね」
「昔に戻りたいですか?」
それを聞くと、店主は寂しそうになった。やっぱり昔のほうがいい。賑やかだったら、利益が増えるのに。多くの人と交流できるのに。
「はい。できれば昔に戻りたいです」
「そうですか」
店主はあの頃に戻りたいようだ。だが、もうあの頃には戻れない。そして、このシャッター街はさびれていくんだろうか?
しばらく歩いていると、知らない路地に入った。路地には古い民家やアパートが密集している。こんな光景が十文字商店街の近くにあったとは。ここも魅力的だな。ここも外せないな。
「この路地は何だろう」
だが、誠一郎は疑問に思っていた。商店街の外からの風景からして、こんな路地はないように見える。十文字商店街の周りは、比較的新しい民家やマンションがあるはずなのに、どうしてこんな路地があるんだろう。まさか、知られざる穴場だろうか?全く想像できない。
「さびれてるなー」
誠一郎は辺りを見渡した。ここも魅力的だ。ここも動画に上げないと。きっと多くの人が行きたいと思うだろう。きっとここは穴場になるぞ。
「ここはどこだろう」
誠一郎はこの路地を抜けようとした。だが、その路地を出る場所が見当たらない。行けども行けども、古い路地ばかりが広がる。こんなに規模が大きい古い路地があるとは。新しい住宅街の中にこんなのがあるなんて、信じられない。
「あれっ、この道来たっけ?」
次第に誠一郎は焦ってきた。前に来た道に戻ってきたようなのだ。見たような風景だ。何度も見ていると、不安になってくる。まさか、この中で迷子になったのでは。早く誰かに助けを呼ばないと。誠一郎はスマホで助けを呼ぼうとした。だが、スマホは圏外で通じない。この辺りに圏外はないはずなのに。どうしたんだろう。まさか、電波障害だろうか? いや、そんなうわさはまったく聞いていない。明らかにおかしい。
「くそっ、全くわからなくなった」
誠一郎は首をかしげた。ここから出る手段が全く見つからない。まるで迷路に迷い込んだようだ。
と、誠一郎は何かの気配を感じた。後ろに誰かがいる。
「ん?」
誠一郎は振り向いた。だが、そこには誰もいない。おかしいな。誰かがいるような気がしたのに。ひょっとして、幽霊が見ている。ならば、早く逃げないと。
「誰もいないなー」
誠一郎は首をかしげた。あまりにも怪しい。ここって、まさか幽霊が出るのかな? いや、そんなうわさは耳にしていない。ここは普通のさびれた商店街だ。
「誰だろう」
誠一郎は再び歩き出した。だが、すぐに誰かの気配を感じた。
「あれっ?」
誠一郎は再び振り向いた。だが、そこには誰もいない。やっぱりおかしいな。誰かの気配がするのに、誰もいないなんて。
「やっぱり誰もいない」
誠一郎は前を向いた。そこには、1人のゾンビがいる。そのゾンビの服装は、今さっき入った喫茶店の店主にそっくりだ。
「キャー!」
そのゾンビは刃物を持っている。まさか、自分を殺そうというのか? 早く逃げよう。誠一郎は焦っていた。
「ぎゃあああああ!」
だが、ゾンビはすぐに誠一郎の胸を刺した。誠一郎は即死だった。
誠一郎の遺体は喫茶店の奥にある倉庫に吊るされた。そこには、これまでにそのゾンビが殺した死体が集められていて、誠一郎のように吊るされているという。
後日、死んだはずのYouTuber、ナミキのチャンネルに1つの動画が投稿された。十文字商店街の様子を撮影した動画だ。その動画を見た人は、ゾンビに襲われる夢を見るという。
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