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1ー8 花束
「私の前妻は、淫魔族の娘でな。アーキライトは、その血を濃く受け継いでいる」
昼間に僕と畑を見回りながら魔王のおっさんが話した。
「そのこと事態は、たいして悪いことではない。だが、アーキライトの奴は気にしている」
魔王のおっさんは、畑になっている赤いトーラの実をもぐとそれをうまそうに齧った。
「これ、うまいな!」
「勝手に食うなよな!」
僕は、ちっと舌打ちをした。魔王のおっさんは、ちっとも悪びれた様子もない。なんか、ムカつく!
「アーキライト、兄さんは、なんで気にしてるんだよ?」
僕は、石ころを蹴飛ばながら畦道を歩いた。魔王のおっさんは、もう1つトーラの実をもぐとうまそうにかぶり付く。
「こんなうまいもん、魔王国にはねぇし!やっぱ、お前、魔王国に来ないか?俺の義理の息子だし、大臣にしてやるぞ」
「んなもん、知らねぇし!僕は、普通に生きていきたいんだよ!」
僕が言うと魔王のおっさんは、僕をちらっと見た。
「普通、ねぇ。そんな力を持ってて普通を目指すか?」
「僕は、目指すんだよ!」
そこで僕は、その日、まだ、誰の願い事も叶えてないことを思い出した。
母さんは、最近、願い事をきいてもあまりいい反応がないし、農園には、他にはゴーレムたちしかいないし。
僕は、仕方なく魔王のおっさんにきいた。
「なんか願い事ある?」
「なんだ?突然」
魔王のおっさんが疑うような目で僕を見たので僕は、力の対価について話した。
おっさんは、特に興味もなさげに僕に言った。
「花」
「花?」
僕がきくと魔王のおっさんが照れた様子で答えた。
「花束が欲しいな」
僕は、その魔王らしからぬ願いにホッとしていた。
僕がすぐに花束を出してやると魔王のおっさんは、かっと目を見開いた。
「これ、どこから出した?」
「今、ここで空間?から、出したんだけど」
僕が答えると、魔王のおっさんがちょっと考え込んだ。
「空間って、なんだよ。あぶねぇ力だな!マジで、ヤバい力だぞ、これ」
「いらないのか?」
「いる!」
魔王のおっさんは、僕が出してやった花束を持って家の方へと走っていった。
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