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1ー9 エリザベス
夕方、僕は、牛(カーブ)小屋で一匹の牛(カーブ)の背にブラシをかけていた。
この牛(カーブ)は、エリザベス。
僕が最初に交配して誕生させた牛(カーブ)だった。
エリザベスは、賢い牛(カーブ)で彼女の出す乳は、特別美味しかった。
エリザベスは、美食家で他の牛(カーブ)たちと違って普通の干し草を食べようとはしない。
エリザベスは、干し草の中からアオミノクサだけを選んで食べていた。
アオミノクサは、とても高価な薬草だった。
若返りの薬草ともいわれるアオミノクサは、王都の貴族たちが使う化粧品にも使われているものだった。
うちの牛(カーブ)たちには、僕が薬草を改良した特殊な草から作った干し草を与えているけど、エリザベスは、その干し草には見向きもしないでアオミノクサだけ食べている。
仕方ないから僕は、特別に牛(カーブ)のエサ用の畑の一角でエリザベス用のアオミノクサを育てている。
この薬草を主食にしているせいかエリザベスは、光輝くように美しい牛(カーブ)だ。
もし、この世界に牛(カーブ)の品評会があればエリザベスは、優勝間違いなしだろう。
「エリザベス、お前は、ほんとにかわいいな」
僕がエリザベスに話しかけながらブラシをかけてやった。エリザベスは、モウ、と可愛らしく答えると僕の手を長い舌でぺろっと舐めた。
僕は、エリザベスの頭をぐりぐりと撫でてやりながらふふっと笑った。
「ほんとに、あいつも少し、エリザベスのことを見習ったらいいのにな」
外見だけ綺麗でも、可愛げの1つもないし。
魔王のおっさんだって母さんに気をつかってとはいえ牛(カーブ)の世話を手伝ってくれてるのに、アーキライトの奴は、一日中、部屋にこもって出てきもしない。
昼飯を持っていったら、ベッドに寝転んで本を読んでたし!
それも、なんか超難しそうな政治経済系の本っぽい感じだった。知らんけど。
ちなみに僕は、この世界では学校に行ったことがなく、字も読めないし書くこともできない。
母さんが教えようとはしてくれたんだけど、なかなか時間がなくて勉強がすすんでない。
僕も字を覚えなくてはとは思っているんだけど、1日の仕事の後だと眠くなっちゃって。
「本なんか読んじゃって、偉そうに!」
「お前は、本を読まないのか?」
背後から不意に声が聞こえて僕は、びくっとなって振り向いた。
そこには、アーキライトが立っていて僕のことを見下ろしていた。
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