76人が本棚に入れています
本棚に追加
2ー2 夏草
最初、目が暗さに慣れなくてよく見えなかったが、じょじょに僕の目は、ピントがあってきて。
そこには。
肌をはだけたアーキライトと魔族の青年が立っていて。
アーキライトにその魔族の青年は、口づけながら笑っていた。
「お前が寂しがってると思ってきてやったんだぞ、アーク」
その魔族の青年は、確か、最近、魔王国からやってきた連中の1人だった。仕事はできるが、町の酒場で女たちに声をかけたりして、嫌われているという噂だった。
魔族の青年にべたべた体を撫で回されてもアーキライトは、拒もうとはしない。それどころか愛撫を喜んでいる素振りすら見せている。
僕は、なんだか腹がたっていた。
アーキライトに、だ。
そんな奴にいいようにされてるなんて!
さっさとそんな奴、ぶん殴って立ち去ってくれればいいのに。
僕は、そう思っていたが、アーキライトは、その魔族の口づけを受け入れて喉を鳴らしている。
「かわいい奴だ」
魔族の青年は、作業所の床にアーキライトを押し倒すとアーキライトの裸の胸元に口づけを落とす。
「ここも・・1人で寂しくて自分で弄ってたのか?アーク」
ちゅっと音をたてて魔族の青年がアーキライトの胸の頂に吸い付くとアーキライトが眉をよせて呻き声を漏らした。
僕は。
その男にされるがままになっているアーキライトに腹がたって。
痛いぐらい拳を握りしめたまま、その光景を眺めていた。
ふと、目線を上げたアーキライトと僕は、目があって息を飲んだ。
アーキライトは。
僕と目が会うとにぃっと赤い唇を歪めた。
僕は、見えない手に打たれたようにその場から走り去った。
僕は、農場の裏に広がる牧草地を走った。
背の高い夏草の中を息をきらせて走り続ける。
僕の頭の中に、アーキライトの妖艶な笑みがよぎっていく。
不意に草に足をとられて僕は、倒れ込んだ。
僕は、草むらに寝転んで空を見ていた。
辺りは静かで。
僕の息苦しそうな呼吸音だけが聞こえていた。
アーキライトが誰といちゃついてようと僕には、関係ない。
アーキライトは、もう、とっくに大人だったし。
恋人がいない方がおかしいのかも。
だけど。
僕は、なんだか悔しくて。
もしも。
僕がもっと大人なら。
そう思って、僕は、唇を噛んだ。
最初のコメントを投稿しよう!