2 兄と弟

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 2ー8 嫌いになれない  王都からの迎えの馬車がきて僕が旅立つ日、僕を見送ってくれたのは、母さんと魔王のおっさんと農場の魔族たちだった。  アーキライトは、その日は、朝から姿を見かけることもなくて。  僕は、イライラしていた。  なんで見送ってもくれないんだ?  僕は、アーキライトのことを目で探し続けていたが、馬車の御者のおっさんに乗るようにと促され馬車に乗り込んだ。  「しっかり勉強してきてね、シア」  母さんが涙ぐんでいるのを見て僕も少し涙ぐんでいた。僕は、母さんが僕に何を望んでいるのかわからないが、ともかくがんばろうと思っていた。  魔王のおっさんがにやりと笑った。  「王都であんまり暴れるんじゃないぞ、ルルシア」  なんだそれ?  僕は、はぁっとため息をついていた。  なんだよ、それ!  ほんとに!  僕は、馬車の窓を開けて手を振る母さんたちに向かって叫んだ。  「行ってくるよ!休みには、帰るから!それから」  僕は、言いかけて口をつぐんだ。  馬車は、走りだし農場は、どんどん離れていった。  アーキライトは、来なかった。  僕は、それが抜けないトゲのように胸に刺さるのを感じていた。  そのとき。  町の外れの辺りで、突然、僕の名前を呼ぶ声が聞こえたような気がして僕は、窓の外を見た。  アーキライトが。  彼がたたずんでいる姿が見えた。  僕は、窓を開けて叫んだ。  「アーキライト!」  「ルルシア!」  一瞬。  彼と視線が絡み合う。  僕は、遠ざかる彼の姿が見えなくなるまで見つめていた。  僕が気がつくと、いつの間にか手の中に何か丸いものが握られていた。手を開くと、そこには、丸い石が握られていた。  アーキライトの瞳と同じ赤い色の石だった。  なんだか、アーキライトの分身みたいな気がして。  僕は、その石をぎゅぅっと握りしめた。     王都には、馬車で1ヶ月の旅だった。  僕は、移り変わっていく風景を見ながら、なんだか不安な気持ちになっていた。  僕の父親は、この国の王さまだって母さんが言っていた。  なんかややこしいことに巻き込まれそうで、イヤな予感がする。  でも、、僕は、絶対に僕のままであの辺境の町へと戻るつもりだった。  僕は、母さんやみんなが待っているあの場所へ戻る。  ふと、無表情な美しい横顔が浮かんで僕は、顔が熱くなった。  アーキライト。  兄さんは。  僕を待っていてくれるんだろうか?  というか。  アーキライトが待っていてくれたとして、僕たちの関係がどうこうなることなんてないし!  僕は、アーキライトに何を期待してるんだ?  アーキライトは、魔性の男だ。  男も女も関係なく惑わす淫魔の末裔だ。  そして、何より、彼は、僕の兄でもある。  僕たちの間にそれ以外の関係なんて考えられない。  僕は、ふぅっと吐息を漏らした。  王都でちょっと頭を冷やさなくては。  僕は、もしかしたらアーキライトに魅せられてしまっているのかもしれない。  あのときの魔族の少女の顔が浮かんだ。  アーキライトは、なぜ、あの少女を破滅させたのか?  僕には、彼のことが理解できない。  理解できないけど。  僕は、アーキライトを。  兄さんのことを嫌いにはなれないんだ。
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