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「はい、ええ、では暑気払い企画その一です。今日この飲み会、カルーアミルク縛りでいきます! 生中とか水割りとか、そんなのを頼む悪い子には――」といって塩タンとハラミ、カルビの運ばれてくるテーブルを牽制するかのように視線を投げ、「ごほうびとしてカルーアをあつあつのホットで飲んでいただきます!」と誇らしげに結んだ。
飲み会の幹事は順繰りでまわって来、抜擢された者はひとつふたつ(プレゼントなりゲームなりの)企画を考案する決まりだった。
「はあ。いくらなんでもカルーアって、なあ」とわたしの隣の主任が苦笑いする。その表情から生気をどんどん奪うカルーア。止めどもなく運ばれてくるカルーア。
幹事は所長を指名する。「え、こ、これで乾杯するの? でもなんか、なんかなあ。なんかなんだよなあ」と渋々ながらも立ち上がり、「まあ、ええわ。みんなもう持ってる? それでは――乾杯! 上半期お疲れさまでした! あと一か月頑張ろう!」と音頭を取る。冗談にも笑って付き合える。そんな仲だからだ。グラスを持って隣や正面、また離れた席の同僚にまでグラスを鳴らしに行くあいだにも、若い者は自分の分を確保すべく、さっそく塩タンを網に乗せてゆく。なんてことはない。ただのカルーアだ。肉の焼ける匂い、笑い声やざわめき、続々と運ばれてくるカルーアのころんとした丸いグラス、氷のからからと鳴る音、悪酔いしてゆく者。ペースがつかめない。ひたすら、ひたすら気持ちが悪い。誰がカルーア以外飲めない飲み会に行くというのだ。恨みはない。恨みはないが、カルーア、きみは向こう三年見たくもない。
もうこの者に幹事が回ってくることは、ないだろう。
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