6人が本棚に入れています
本棚に追加
近所の高校とその最寄り駅からは少しばかりルートを外れた住宅地の一角にある喫茶店ノワール。
マスターの中年男性と僅かなスタッフで切り盛りするその店は客足もまばらでいつも静かな雰囲気だ。
「帰ったぞ」
店内の床を掃いていたミニスカメイドスタイルの女が顔を上げるとマスターにして彼女の義理の父親でもある黒須だった。
「おかえりパパ、って、ナニソレ」
「店の脇の日陰に転がっててな」
黒須が肩に担いでいるのは十歳かもう少し若いだろうか、歳相応に小柄な少年だった。
「普通人間拾ってくる?」
「俺だって好きで拾ってたわけじゃねえんだがこの炎天下だしその辺に転がしとくと不衛生だからな」
「ほっとけばいいじゃない。これってワンチャン未成年略取よ」
「客が見つけて言って来たらめんどくせえしよ。なんならお前がどっか離れたとこに捨てて来てくれよ」
「いやよなんであたしが」
外は度を越した晴天で気温も高い。少年は意識が無く既に熱中症寸前だろう。今何処かへ放り出せばその結果は目に見えている。黒須もそれがわかっていたからこそ渋々連れて来たのだ。
「だろ。つーわけで悠希、店の掃除はいいから奥の応接でこいつの世話しててくれ」
「あたしがあ?」
ミニスカメイドスタイルの女、悠希は露骨に顔を顰めたものの、自分だって暑さで倒れていた子どもをもう一度外に放り出せるほど豪胆な無神経でもない。
「し、仕方ないわね……まあ小うるさいおばちゃんたちの世話よりはいっか」
「お得意様になんつー言い草だお前」
「そんなこと言ってパパだって思ってんでしょ」
「思うなとは言ってねえよ。口にするんじゃねえ」
「はいはいわかってますって」
悠希は箒を置くとため息交じりに黒須から少年を受け取った。
「言っとくが呑むんじゃねえぞ」
「はいはい善処しますって」
黒須は「こいつ呑む気だな」と思ったが、それ以上はなにも言わなかった。
最初のコメントを投稿しよう!