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美しき魔術士
「今日から…ここで働かせていただきます。よろしくお願いします」
俺は重い荷物を足元に置くと、深く頭を下げた。
華美な装飾の玄関ホール。
まるで美術館や高級ホテルみたいだと思うが、ここはれっきとした個人の邸宅だ。
俺を迎えてくれた数人の住人たちは、みんな漫画で見たような執事服やメイド服に身を包んでいる。
ここは大富豪…雪之城家。
俺が今日から使用人として働く屋敷だ。
自分の実家に不満はないけれど、ごくごく普通の一軒家三十年ローンの我が家と比べるとあまりの違いに目眩がしそうだ。
「……はい、よろしくお願いしますね」
使用人らしき人の中で、おそらく一番年長らしき、執事服を着た初老の男性がこちらに一歩踏み出した。
俺のことを頭から靴先までさっと眺める。
「えーと…雲雀 青磁 くん?」
「はい、雲雀 青磁。16歳です。神奈川から来ました」
「わかりました。私はこの雪之城家で執事を勤める、星崎といいます。
雲雀家なら、得意とするのは植物魔術……でいいかな」
「はい。……ただ、俺は……」
「ああ、きいてるよ。大変だったね。魔術士の家系で……苦労しただろう?」
「っ……い、いえ。大丈夫です」
星崎さんから思いがけず優しい声で話しかけられ,声が上擦った。
てっきり。
魔術士になれなかった俺は、この家でも邪魔者扱いされると思っていたのに。
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