きみを守るために、演じ切ってみせよう。 前編

2/6
前へ
/13ページ
次へ
 リンジーの冷たい声がパーティー会場内に響き渡る。  シャーロットは肩を震わせ、耐えきれないとばかりに会場をあとにした。  彼女が会場に到着してから、十分も経っていない。  会場から姿を消すシャーロットの姿を、リンジーはただ見つめていた。 「――さて、頭の固い公爵令嬢は会場を去った! 今宵(こよい)は時間を忘れて楽しもうではないか!」  シャーロットが完全に姿を消したのを確認してから、リンジーはそう叫ぶ。  パーティー会場に集まった貴族たちは、シャーロットのことな気にせずに、むしろ一種のパフォーマンスを見たかのように盛り上がった。  それを冷めた目で眺めながらも、リンジーは最後までその場に留まる。  そして、パーティーが終わり、別室にいるローズマリーのもとへ向かう。  扉をノックすると、ローズマリーが「はい」と返事をした。 「失礼するよ、ローズマリー」 「どうぞ、リンジー殿下」  部屋の中に入ると、ローズマリーがリンジーを見上げた。痛ましそうに表情を歪め、口を開く。 「本当によろしいのですか、殿下」 「ああ。……きみも、すぐにこの国から逃げるべきだ。――ご苦労だった、ローズマリー」  金貨の入った袋を手渡す。彼女は金貨を受け取り、頭を下げた。 「殿下のお心遣いに感謝いたします。これだけの金貨があれば、家族ともども、逃亡することができます」  領地を持っていない男爵家。それがローズマリーの生家だ。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加