第一章 九條 瑠衣

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『口が固い事。秘密は必ず守る事。会話の中で、お客様がうっかり内密案件を漏らす事もあるし、こんな所に出入りしているのが知れたら、大事になりかねない。だから、ここで働くのなら、口が固い事は絶対条件。いいね?』 『はい。わかり……まし……た……』  予想以上に制限が多い事に内心驚いていた瑠衣だが、借金を返さなけらばならない事を考えると、妥当なのかもしれない、と思い直す。  そう、瑠衣は南洋ファイナンスの金蔓(かねづる)のような存在となったのだ。  凛華が不意に思い出したように、質問を続けた。 『ああそうだ! 重要な事を聞き忘れた』  両手でパンっと一度叩くと、瑠衣は顔を引き攣らせながら身体を小さくビクリと震わせる。 『何ですか?』 『まさかとは思うけどさ。あんた…………処女じゃないよね?』 『……っ』  瑠衣が一瞬怯んだ表情を浮かべたのを、オーナーは見逃さなかった。  これまでの人生、瑠衣が付き合った事のある人は、音大時代に一人だけだ。  身体の関係を持とうとしたが、互いに初めてだった事もあり、瑠衣がやたら痛がって、結局は未遂で終わった。  黙っていても凛華にバレると思った瑠衣は、処女だという事を正直に話した。 『そういう雰囲気になった事はあるけど…………う〜ん……処女かぁ……』  顔を顰めながら腕を組んだ女主人は、遠くに視線をやりながら思案しているようだ。  何か思いついたのか、困惑しながらも瑠衣に提案する。 『あんたが良ければなんだけど……』 『はい』 『私の知り合いで、女風のオーナーやってるイケメンがいるんだけどさ、その人に初めての相手になってもらえるよう、お願いしてみる?』 『え!?』 (女風……? それって…………女性専用風俗って事……だよね?)  思いもよらなかった凛華の提案に、瑠衣は目を丸くさせながら唖然としていた。
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