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仄暗い灯りの中で、彼の真剣な眼差しが瑠衣を捉える。
「…………先生のレッスン、強烈に怖いからなぁ。ブランクあっても容赦しなさそ——」
「吹いてみないか?」
鷹のような鋭い視線は、なりを顰め、瑠衣の言葉を遮った。
「…………教えるとしたら、俺がオフの時にしかできないが」
遠くで連なっている柔らかな灯に目を向けながら、瑠衣は逡巡する。
四年前、借金返済で売り飛ばされ、無理矢理連れて来られたあの娼館。
あの火災で、家族同然の凛華が亡くなり、尚も悲しみを抱えている状態で、音楽なんてやっている場合ではない。
借金もまだ残っていて、しかも侑の家で身を寄せている状態。
ゼロどころか、マイナスの状態に瑠衣はあるのだ。
それなのに、自分はぬくぬくとした中で、楽器を再び始めてもいいというのか。
軽々しく『もう一度吹いてみないか』と言葉を発していると思われる侑に、瑠衣は怒りすら覚えた。
「全てを失い、先生の家に住まわせてもらって、まだ借金が残ってる状態で、楽器を吹くどころではないです!!」
やり場のない複雑な気持ちを一気に投げ打つように、キッと睨みながら侑に言い返すと、また一つ、彼がため息を吐いた。
「…………全てを失っているからこそ、お前には『ラッパを吹く』という心の支えが必要なのではないか?」
「…………心の……支え?」
「このまま無の状態が続き、心の支えになる物が何もなかったら…………恐らく、お前自身がやられてしまうだろう」
侑は瑠衣の手を引き、無言のまま境内の中にある小さな社へと向かった。
「…………ここが、芸事の神が祀られている社だ」
周辺の柵にはアーティストや音楽家を始め、俳優や芸人など著名人の名前が刻まれている。
彼が財布から小銭を取り出し、賽銭箱に入れて二礼二拍一礼でお参りした。
「ほら」
侑が瑠衣に百円玉を手渡し、お参りするように促すと、彼女も辿々しく同様に参拝する。
「…………お前の気が向いたら、まずは挑戦してみたらどうだ?」
「…………」
沈黙したまま、社を見続けている瑠衣。
刺すような冬の夜風が二人を包み、吹き抜けていく。
空には、あと少しで丸くなりそうな月が浮かび、二人を穏やかに照らしていた。
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