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第九章 傷心
侑の自宅に到着する直前、家の前に黒ずくめのスーツを纏った二人組の男が立っているのが見えた。
「何だ? アイツら……」
体格のいい黒髪のオールバックの男と、細身で茶髪をツンツンさせた男が待ち構えている。
瑠衣を娼館に売り飛ばした張本人たち、南洋ファイナンスの二人組だ。
「あ!」
瑠衣が咄嗟に声を上げると、彼がステアリングを握りながら顔を怪訝にさせた。
「…………お前、あの二人を知ってるのか?」
「…………借金取り……」
ボソッと答える瑠衣に、侑がハアッとあからさまに息を吐き出す。
「そういえば、まだ少し残ってるって言ってたな」
侑の問い掛けに、瑠衣が黙ったまま頷く。
それにしても、行方知れずの負債者を何としてでも見つけ出す『動物的な勘』のようなものに、彼女は、改めて借金取りの恐ろしさを感じてしまう。
隣にいる侑は、冷静な状態で前を見据え、特に怖がっている様子でもない。
「お前の居場所がバレたのなら仕方ない。行くぞ」
侑は何事もないように車庫に車を停める。
スマホを取り出して操作し運転席から降りると、瑠衣も後に続くように助手席から降りた。
「失礼だが、うちに何か用でも?」
「あ、いや、この家に九條瑠衣って姉ちゃんがいるっていうのを聞——」
侑は淡々と南洋ファイナンスの二人に話し掛けると、リーゼント男が侑の背後にいる瑠衣に気付いた。
「よぉ姉ちゃん。久しぶりだなぁ。凛華さんが亡くなってから、姉ちゃんが行方知れずって聞いて探しまくったら……こんな大きな家にいたんだなぁ。しかも、色男の兄ちゃんと一緒でさぁ」
ガタイのいい男の言葉に、侑は猛禽類のような鋭い眼差しでギロリと睨むと、畏怖のような物を感じたのか、ヤツが身体をブルっとさせる。
「率直に聞くとしよう。あといくらだ?」
侑の背中に隠れるようにして事の成り行きを見ていた瑠衣が、濃茶の瞳を見張った。
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