『運命の書』

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「そこのおヌシ……」 「?」 「我は運命の書。さぁ、おヌシの未来を切り開く為にも願いを言うが良い」 「古本屋さんで大人買いしてみたら、なんか胡散臭いのが混じってた」 「有り難い、の間違いであろう。我に願いを唱えつつ……」 ベリッ。 「わー!?」 「あ、半分に破いてもまだ喋れるんだ」 「物理的に切り開く奴があるか!」 「表紙の方から声が聞こえる。じゃあ裏表紙の方は本体では無い、と」 「なにこの人間、淡々と我を分析し始めたコワイ!」 「じゃあ、このままどんどん半分にしていこうか。どこまで行ったら声が聞こえなくなるかな?」 「イヤー!」 ビリビリビリ…… 「うぅ……。この人でなしッ!」 「ガチの人で無いモノに言われましても」 「我が表紙一枚になってしまった……」 「つまり表紙に魂的な何かが宿っている、と」 「こんな姿じゃ、もう『書』って名乗れない……。運命の一冊というより、一枚になってしまった……」 「まあまあ、なんとなく仕組みは分かったからセロハンテープでくっつけてあげるよ」 「何それ安っぽい。しくしく」 「泣くと湿るぞ」 「な、泣く事すらも許されないのか……!」 「それが紙の悲しいサダメだね」 「もうヤダ、早く生気を吸い取っておうちに帰りたい……」 「そうか対価は生気だったか」 「うぐっ」 「もちろん、そんな取り引きに応じる気は無い」 「で、ですよね……」 「とはいえ何だか面白い本だった事は分かった。暇潰しにもなりそうだし、焼き捨てるのはやめておこう」 「サラッと明かされる恐ろしいプラン!」 「だけど、もし悪さをしたら……。分かっているね?」 「は、はい……。勝手に変な事も出来ないし、逃げたりも出来ないので、どうか火炙りとかはご勘弁を」 「そう聞くと意外と可哀想なヤツだな」 「なにせ基本的には本なもので……」 「お前の運命こそ、この手にあり……という事になったのか」 「本当なら人間の運命を変えられる、有り難い書物なのに……!」 「対価を要求する時点で悪魔の書だろう」 「むぐぐぐぐ……」 「まぁ、でもせっかくだし。これからよろしくウンショ」 「は?」 「運命の書だから、略してウンショ」 「ネーミングセンス皆無な人間だった!」 「……」 「あぁっ、スミマセンあだ名ってフレンドリーな感じで良いですよねヨロシクオネガイシマス!!」 (いよいよ自分の『本は友達』が現実味を帯びてきた……。これも運命的な出会い、というやつかな?)
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