ただいま修羅場の真っ最中

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・今まで「お邪魔します」と言っていた彼の部屋。けど今日からは「ただいま」と言って入るんだ。  そんな風に思っていた昔が懐かしい。とても幸せだった。でも、今は違う。二人の部屋は不幸が充満している。まるで呪いがかけられたようだ。  私の不幸せな生活は、一本の電話から始まった。執拗な無言電話が続き、そのうちに相手が勝手に話すようになった。それが地獄の始まりだったのだ。 ・学校で噂の呪いの電話番号。「ただいまお繋ぎしております」というアナウンスにある返事をすると、繋がってはいけない場所に繋がるらしい――。  早速かけてみた。 「ただいまお繋ぎしております」というアナウンスがあったので、ある返事をする(返事の具体的な内容は、危険なので書けない)。  すると電話は繋がってはいけない場所に繋がった。 ・笑顔で「ただいま」と言う夫。けど私は、あなたが浮気相手の家から帰ってきたことを知っている。  私は夫に言ってやった。あなたが浮気相手の家から帰ってきたことを知っていると。最初、夫は笑って否定した。浮気なんてしていないと。私が信じないと、次は怒りだした。  私は浮気の証拠を突き付けた。浮気相手の女の氏名、住所、職業といった個人情報の一切と、二人がホテルへ出入りしている何枚もの写真だ。それら興信所の調査結果を見て、夫は動揺した。どうして分かったのか、と間抜けな質問をする。私は無言でスマートフォンを指さした。宙を泳いでいた夫の目がテーブルの一点で止まる。私はスマホを持ち上げた。だけど、まだ何も言わない。夫の不安と恐怖を十分に掻き立ててから口を開く。 「無言電話があったの。何度も。それからしばらくすると、女の声で、こう言うようになったの。ご主人と真剣に交際しています、あの人と別れて、とね」  そのときスマホが鳴った。着信番号を見る。あの女からだ。私はスピーカーのボタンを押してからスマホを夫に突き付けた。 「あの女からよ、出なさい」  夫は震える手で私のスマホを受け取った。唾を飲み込んで、電話口に話しかける。 「もしもし」  スマホから聞いたことのない声が流れ出した。 「もしもし、学校で噂の呪いの電話番号に掛けてみたんですけど、そこはどこですか? 繋がってはいけない場所に繋がるらしいんですけど、そこは一体どんな場所なんです?」  私は夫の手からスマホを取り上げ、スピーカーの向こうへ話をした。 「ここは地獄の一丁目よ。今、修羅場の真っ最中だから邪魔しないで」  それから通話ボタンを切る。夫を睨む。 「邪魔が入ったけど、話を再開しましょ。慰謝料どうする? 私は、あなたからも浮気相手からも、たっぷり払ってもらうつもりなんだけど」
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