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由麻
わたしは関屋さんとは別の個室で話をしていた。頼りになるおばあさんと一緒にいたかったけれど、なぜか離れ離れになった。
「由麻さん、お母さん、お父さんの顔を思い出せるかな?」
まだ若い警察官の女性が優しく話しかけてくる。うんと返事をする代わりに頷いて、育ての親を思い出す。
「お母さんは少し太っていて、目は細くて鼻はまん丸、唇はカサカサで薄かった。髪はすごい短め」
淡々と話していくと、わたしの中でつっかえていたものに気づく。大きくなるにつれ、なにか変だとは思っていた。お母さんに似ていないこと、お父さんにも似ていないことに違和感をもっていたけれど、言ってしまったら終わるんではないかと不安を感じていた。
「お父さんは、肌がやけていて、狐目、鼻は通っていて唇は分厚かった。髪型は耳まで出ていて耳が少し潰れていた」
わたしの体型はどちらともいえない。お父さんは標準的な細身だったけど、わたしとは違っていた。
「こんな感じかな?」
似顔絵警官に、育ての親を見せられたとき、あれだけ過ごしていたのにまったく知らない人に見えて。
「はい。似ています」
「お母さんたちは何て言う名前だったのかな?」
ぶわっと鳥肌が立つ。両肩を抱いて擦るわたしに話を聞いていた女性警官が立ち上がり、ゆっくりでいいからねと言ってくれる。
わたしは十年間、まったく知らない他人にただいまと言っていたのかと思うと、切なくなり怒りで涙が込み上げてきそうになった。
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