関屋

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 あたしの平屋に迎え入れ、麦茶を出すとごくごくと飲んでいる由麻ちゃん。なんで今さら打ち明けたのだろうか?打ち明ける勇気があるなら、警察に行き自首して、由麻ちゃんの生きていく進路を提示してからじゃないだろうか? 「関屋さんは知っていたんですか?わたしが山田由麻じゃないってこと・・・」  由麻ちゃんがあたしに向ける視線は鋭くどこか気だるげで。何もかも諦めている空気がしている。 「知らなかったよ。山田さん夫婦と親しかったわけでもないし」  あたしが子供の頃の四十年前は、隣近所みな家族だと言い、近所ぐるみで子を育てていたもの。  だけど、時代は変わり、プライバシーが尊重された現代では、隣近所のことを知らない人がほとんどではないだろうか? 「知っていたなんて言ったら共犯になりますからね。わたしの産みの親がわたしを捨てたのが原因ですけどね。そんなに怯えないでください。警察には隣の人に助けてもらったって証言します」  小学五年生にしてはやけに冷静で、事の重大さを落ち着いて対処している。あたしも麦茶を一口飲み、乾いた喉を潤してから聞く。 「産みの親に会いたいかい?」  会いたいと即答したのならまだ純粋な子供だと思っただろう。 「わたしは、ただ居場所がほしいだけです」  確信を得たようにはっきりと言いきる胸の内を知ることはできない。家族だと信じていた夫婦に捨てられ、さらに産みの親の情報すらわからないまま。 「関屋さん、警察に通報しないんですか?」  由麻ちゃんの言うことが本来すべき行動なのだろう。警察に引き渡して保護施設へ預けられ、それで産みの親が見つかるならいいのだけれど。一日中テレビを観ているあたしに子供が行方不明になったニュースを見聞きしたこともない。親心があるならば、何かしらの行動に移ってもいいはずなのに・・・ 「通報はするよ。それで由麻ちゃんの産みの親が見つかるまで一緒に暮らさない?」  何も知らなかったあたしにも非がある  六十代前半あたしと由麻ちゃんは、孫とおばあさんの関係になるけれど、もう悲しい想いはこれっきりにしてもらいたい。 「関屋さん、善意が時に悪意になるときだってあるの!!今さら手を差しのべないでよ」  子機を手にしていたあたしは小さなテーブルへと子機を置いて、由麻ちゃんを抱きしめていた。  俯いて顔は見えないけれど、丸まった背中が震えていた。声を抑えるように泣きじゃくる由麻ちゃんから聞けた本心にあたしもつられて泣いていた。 「ごめんね。今まで気づいてあげられなくて・・おばあさんを恨んでいいよ」 「わたしは・・・ただいまって言いたかっただけなのに。どうして、どうして!!」
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