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関屋
一軒一軒の家に明かりが灯っていく。ただいまの声があちこちから聞こえてくる夕方。
「由麻ちゃん、家族の人は?」
リノベーションされたランドセルを抱きしめて平屋の玄関に佇む女の子がいる。小学五年生だと噂されていた割には華奢で、髪だってボサボサ。
「・・・・・」
親の言いつけをしっかり守っているのか、あたしの言葉に答えようとせず、虚ろな視線で一瞥しただけ。
「隣の関屋おばあさんだよ。知らない人じゃないだろう?」
「関屋さん、わたしはこの家の人じゃないって置き手紙がありました」
由麻ちゃんが七歳の頃に育てた朝顔のプランターをどかすと砂利にまみれた紙が置かれてあった。
「由麻ちゃん、小学校は?」
「フリースクール。由麻っていう名前も違うって」
十歳の子には酷な話をしたものだと文句を言おうと、平屋の玄関を叩こうとしたら、由麻ちゃんがドアノブを回し開け放つ。
「わたしが家族だと思ってた人はもういなくなりました。関屋さん、わたしは誰でどこの子でしょう?」
開け放たれた扉から見える室内は急いで逃げた形跡が見られた。山田さん夫婦は消え去り、由麻ちゃんの靴や服、数日分の食料が残されたままになっていた。
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