知りたくなかったあなたのこと

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知りたくなかったあなたのこと

「明日のリリイベ、始めるの割と遅めだな。なんとかしてふぇぶくんの配信に間に合わせないと。」  そう言いながら、私は明日のリリイベへの準備を整え、ベットに横になった。 「『ごめんなさい、明日の配信は私用でなしになりました(泣)』えー!!!なんでなんで!ありえないんだけど。リリイベ終わりにふぇぶくんの配信ないとか、私やってらんないんだけど。」  あまりにむしゃくしゃしたので、フェブラルくんにDM送った。なぜか、癖で罵詈雑言まで付け加えてしまった。  案の定、ふぇぶくんからお説教が返ってきた。本当はただ、配信がないのが寂しいって書けばいいのに、なんであんなこと書いたんだろう。 「ごめんなさい、言い過ぎました。本当に反省してます。いつも配信ありがとうございます。今後は気をつけます。」  ふぇぶくんは本当にそういうところしっかりしていてとても憧れる。ちゃんとファンにも叱ることができるし。  次の日、ショッピングモールのイベントに朝イチで向かった。今日の会場はわりと広めだから、大きめに動けるけどその分声も大きく出さなきゃ。  場当たりやリハも終わり、ちょっと早めの昼休憩に入った。 「あまり重たいもの入れられないしうどんでいいか。」  うどん屋に並び、かけうどんの小と鮭おにぎり、かしわ天を頼み、いただいた。 「ごちそうさまでした。」  うどんなので、すぐに食べ終わった。フードコートを見渡すと、如月道夫がいた。まだ開場時間まで全然時間があるにも関わらず、もうきている。本当にせっかちなオタクだ。そして遠くから見てもキモさがわかる。  食事終わりにショッピングセンターをぶらぶらしているとゲームセンターが目に入った。 「あっ、ピョンピョンくんデカぬいだ!かわいい。ちょっとやろ。」  私の好きなピョンピョンくんがクレーンゲームの景品にあったので、ちょっとやってみた。結果は600円失ってやめた。クレーンゲームってやっぱり難しい。  服屋があったので、いいのがないか探してみると、あまり見かけような珍しいTシャツがあってちょっと面白かった。 「このTシャツなんだろう。ゲームのか。魔界村。そんなゲームあるんだ。へぇ。」  あまりかわいい服がなかったので、眺めるだけで店を出た。 「あっ、もうこんな時間じゃん。そろそろ楽屋戻らないと。」  最後にもう一度リハーサルがあるため、イベント開場に戻った。特にトラブルはなく、後は楽屋待機。ふとSNSに目をやると、ふぇぶくんが数件ポストしているのが目に入った。 「『ハンバーガーなう!うまし!!』美味しそう。かわいい。あれ、どこかで見たことある景色だけど。これ、奥にモザイクかかってるの私っぽい感じがしなくもない。うどんにかしわ天に鮭おにぎり、今日私が食べてたメニューと似てる。そういえば、ここってハンバーガー屋さんあったよね?」  まさかふぇぶくんがこのショッピングモールに来てる!?なんてわずかな期待に胸を膨らますも、残り2つの投稿で確信に変わる。 「『ピョンピョンくんデカぬいゲットしました!』『魔界村とか懐かしすぎるw』これ今日私が見たところだ!店内の感じとか、ゲーセンの中とかほんとまんまだもん。ふぇぶくん絶対にここのショッピングモールに来てるよ!どこにいるんだろう。」  ふぇぶくんが今日お休みなのって、もしかしてここで遊ぶため?もしかして私のファンだったり?なんて色々と妄想が止まらなくなる。マネージャーさんにも何ニヤニヤしてるのとつっこまれる。  そうしてあっというまにイベントの開演の時間となる。 「みなさん、こんばんは!あなたの心にシューティングスター、すたぁちゃんこと星空すたぁです。」  会場を見渡すと、とある男に目が行く。如月道夫だ。いや、そんなはずはない。絶対にそんなはずはありえない。だが、如月道夫がピョンピョンくんぬいぐるみを背負っている。しかも魔界村Tシャツを着ている。ありえない。今日のふぇぶくんの投稿と全く一致している。なぜだ。  そういえば、よく考えを巡らせると、今日のお昼、斜め前にいたのは如月道夫だった。あいつもハンバーガーを確か食べていたような。いや、絶対にそんなこと考えたくない。あいつがふぇぶくんなわけない。 あまりに色々と気が動転し始めた。今日の私のテンションあまりにもジェットコースターだ。  そう考え過ぎているうちに、ライブは終わってしまった。いよいよお渡し会の時間になり、如月道夫がくる。 「みっちーってさ、Vtuberとかやってたりする?」 「えっ、なんですたぁちゃんわかったの!?そう、宇宙カイザー・フェブラルとしてやってるよ」  判明してしまった。ふぇぶくん=如月道夫であったことが。私のテンションは訳のわからないことになり、突然泣き叫び気がついたら楽屋でずっと泣いていた。マネージャーさんがずっと心配してくれた。本当に申し訳ないことをした。  あまりにこの感情は辛すぎる。失恋と呼ぶにはなんか変な感じだが、確かに失恋だ。大好きなふぇぶくんの正体が、私の嫌いな如月道夫だったから。もうどうしていいかわからなかった。マネージャーさんに全部の事実を説明すると、納得はしてくれた。そしてしばらくの休養を申し出るとそれもOKされた。アイドル失格だ、こんなの。  休養発表が公表された後、ふぇぶくんのアカウントに対してDMを送った。わりとすぐに反応があった。読まれたことを確認した後、プラムのアカウントは消した。私はとりあえずの形で、ここにけじめをつけた。 … … …  その後、私、星空すたぁはまたアイドルとして復活を果たした。久しぶりにライブイベントに立つと、ファンのみんなは快く受け入れてくれた。前の取り乱したことが全くなかったことのように。しかし、一つだけ景色が違った。そこに如月道夫がいなくなっていたことだ。  これが私のアイドル道だ。
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