オタク、如月道夫

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オタク、如月道夫

「すたぁちゃん、おっひさー!」 「みっちーさん、おっひさーって昨日も来てくれたでしょ?」 「へへ、わかってたか」 「いつも来てくれて本当にありがとうね。」 「今日の一曲目のヤミヤミチューズデーなんだけどさ、なんかサビの部分のフリがいつもより弱かった気がするんだよね。」 「そうだった?」 「いや、確かに俺たちオタクたちのコールも弱かったってのもあるんだけどさ、なんかこう、いつも超激しい感じだったから、それと比べるとちょっと弱かった感じがするんだよね」 「そっか、今度から気を付けてみるね。」 「それからさ、この間のすたすみラジオなんだけどさ、最初のふつおた読むのなんか長すぎなかった?」  俺、如月道夫は星空すたぁ♡のTO、いわゆるトップオタ。普段はシステムエンジニアをしている。ファン歴は3年くらいかな。SNSで「スイートガール踊ってみた」を見てから、彼女の健気さというか、頑張ってる姿に何かシンパシーを感じて、そこからライブに通うようになった。 今日も今日とて、すたぁのリリースイベントに参加していて、今は特典お渡し会の最中だ。 「そうだったかな、でも面白かったから」 「他にもさ、いっぱい読んだほうがいいお便りとかあるじゃん?新曲の感想のお便りとかさ。」 「そうだよね。いつも私のこと心配してくれてありがとう、みっちー。」 「俺もすたぁちゃんのためになればなと思ってさ。じゃあそろそろ時間だからいくね。」 「今日も来てくれて本当にありがとう。またね。」  そうして俺はイベント会場から帰った。今日もすたぁちゃんは可愛かった。完全にすたぁちゃんは俺に惚れてる。あの目や仕草は、完全に惚れてる証拠だった。やっぱいつも通ってるだけあったし、手紙やプレゼントも俺のが全部どストライクな証拠だった。  帰りの電車の中で、今日話したこと、すたぁちゃんの喋ってる姿を思い出してはニヤついてしまう。そんなこんなで帰路につく。イベントに向かった時は南中にあった太陽が、もう東に沈んている。いや、東に沈んでたらそれはバカボンのパパなのだ。家に帰って、コンビニで買ってきた生ハムとハイボール缶を開け、ついでにPCも立ち上げる。 「さてと、もうこんな時間だから準備するか。」 ヘッドセットとゲームを準備し、配信の準備をする。 「はいどぉーも。宇宙カイザー・フェブラルです。今日も先週の続き、スプラトゥーンの配信をやっていくよぉ。」  実はVtuberの「宇宙カイザー・フェブラル」として活動している。如月=2月=フェブラリーということでフェブラルだ。といってもどこかに所属してるわけでもなく、ただの趣味だ。趣味にも関わらず、いつも50人くらいの人が見てくれてる。ありがたいことだ。声も姿も、仮の姿にも関わらず。本物はこんなどこにでも転がってそうな単なるアイドルオタクにも関わらず、見ている人は白馬に乗った王子のように思っている。 「プラムさん、2000円スパチャありがとうございます。『ふぇぶくんおつふぇぶ!先週の配信も面白かったよ。今日もいっぱいいっぱい可愛いふぇぶくんを見せてね。』ありがとう。じゃあ今日は先週以上にふぇぶくんがんばっちゃうにゃあん!」  俺はこのプラムがとても苦手だ。たいていスパチャをくれるのはプラムなのだけど、がっついてくる感じや、こちらに色々とキャラを要求してきたりと、とても図々しい。俺が好きなタイプは、すたぁちゃんみたく、清楚で控えめなタイプだ。だから、どうもこういうタイプの人は苦手だ。まあ、数少ないファンだからあまり文句は言えないのだが。  そんなこんなで時刻は深夜1時を回り、配信が終わりの時間を迎え、おれはVな世界から現実へと戻るのであった。
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