五ノ章

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雪愛は聞き耳を立てていた。 どうやら部屋には両親と冬史郎がいるようだ。 「なんとか榛名を連れ戻したいんだがな」 「親父、神代のご令嬢を島に連れ帰ってくるでしょうからその時を待ちましょう」 「そうね!榛名はうちの大事な娘だし、家族がきっと恋しくなってる頃よね」 父親は眉間にシワをよせ難しい顔をしていたが、母親はわりと楽観的だった。 見向きもされてなかったのだが気づいていないのかもしれない。 「神代家は龍神様と神子の子孫とはいえ過去に過ぎません。今、榛名が龍神様の神子である以上、神楽家こそが本家として島の(おさ)になるべきです」 冬史郎は両親を利用すべく冷静に語る 「榛名は我々の元に帰って来たとしても龍神様がな…」 「親父もお袋も龍神様が榛名を溺愛しているのは気づいていますよね。榛名に龍神様を説得させましょう。この屋敷に龍神様に住んでもらえばいい…むしろ島の連中を逆らえないようにするには都合が良いのでは?」 「確かに、龍神様がいれば心強い。神代家を追放できるからな」 「雪愛と比べて榛名は私たち家族の言う事を何でも聞く良い子に育てたものね!」 「はい。島に戻って来た時にでも家族の情に訴えましょう」 冬史郎は気づかれないようニヤリと笑った。 しかし襖が勢いよく開けらると雪愛が現れた。 「雪愛?どうしたの?」 「榛名を家族に戻すなんてありえないわ!榛名は家族じゃなくて忌み子よ!忌み子はこの島…この世から消さないといけないの!!」 「雪愛、榛名は忌み子じゃなくて神子でしょ」 「違うわ!お父さんたちは勘違いしてるわ!私は島で一番霊力強いのよ?私が神子で十六夜様と結ばれるべきなの!神通力だって榛名が私に嫌がらせの為に奪ったの!元々は私のモノをアイツが盗んだんだから!」 「………」 両親は唖然としてしまう。 「お父さんたちだって私の方が龍神の神子として相応しいって思ってるでしょ!翼様に言って取り戻すわ!榛名と接触しなきゃいけないけど、私が本来の力を取り戻したら十六夜様にお願いしてあげるわ!!」 そう宣言し雪愛は自室に走り去った。 翼が自分に惚れてる弱みを都合良く利用し自分が十六夜を手に入れた後に捨ててやろうと考えた。 両親はまだ唖然としつつも 「雪愛が神子かもしれないのか?」 「さ、さあ?どうなんでしょう…」 榛名が神子か少し疑問を持ってしまった。 冬史郎は心の中で「馬鹿が!余計な事しやがって」と舌打ちをした
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