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いつのころからであろうか、この国の貴族たちに文学の大流行が起こった。
もともと、和歌などの流行はあったのだが、新しい分野・日記文学の出現は、紀貫之や清少納言などの有名作家を生みだす。
そんな中、作家を目指すものは多く、数々の素人作家が生み出されているのだが、世に出ることもなく、ひっそりと埋もれていく作家の数も浜辺の真砂ほどあった。
紫式部もそんな自称作家のひとり。毎日、宮中の仕事の後、自称作家仲間内でしか読まれない作品を書いていた。
そして仲間で集まっては、作品の褒め合いと、同年代の人気作家『清少納言』の蔭口を言うのが日課であった。
「あの女、ちょっと流行に乗ったからっていけ好かないわよね」
「最新刊読んだ? 『香炉峰の雪』の話題、いかにも自分が才女だって書いて嫌味なのよね」
「なにさ、父親が有名歌人だから世に出ただけよ」
「ねえねえ、あの女、マクラして世に出たって噂、知ってる?」
「ああ、だから題名が『枕草子』なんだ~~ 笑」
自分たちが読まれない憂さを晴らすのに、底辺作家たちには有名作家への悪口が精神安定剤として必要であった。
そして紫式部は今日聞いた噂話を、無名草紙にしたためてから眠るのであった。
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