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そんな不毛な毎日を送る紫式部に、機会が訪れる。
「紫式部先生でいらっしゃいますか?」
いつものように、仲間と清少納言の悪口のあと、自室へ戻る廊下で、ひとりの男に話しかけられた。
「私は、柄部利栖田麻呂と申すもの。宮中の書籍の管理をしています」
紫式部もその名前は知っていた。清少納言の担当編集者として、枕草子の刊行をした男であった。
「こ、これは御高名の柄部どの。い、いかなる、ご、ご用件で?」
日々、清少納言の悪口をしていることを、この男にバレたのではないか? 紫式部は身構えた。
「先生の『紫式部日記』、拝読させていただきました。先生には非凡な才能がある、と感じまして、お声をかけさせていただいた次第にございます」
有名編集者の言葉に紫式部は目の前が、ぱあっと明るくなるのを感じた。
これであたしも有名になれる! あの女と肩を並べ、いや、追い抜き日本一の女流作家になれるかもしれない。
「こんなところではなんですから、明日にでも私の書斎にいらっしゃってください。今後のご相談をしましょう」
紫式部はその夜、無名草紙に清少納言の悪口をしたためず床についた。
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