平安京の編集者

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 翌日紫式部は、柄部の書斎で今まで飲んだことのない高級茶をふるまわれ、お茶うけに好物の干イワシの焼いたものが出された。 「昨夜も申しましたが、先生には新しい文学を作る才能があります。ぜひとも、私と作品を作ってみませんか?」  柄部はいきなり切り出した。 「あたしも、日記を書けばいいんですか?」 「いいえ、先生にはまったく新しい分野(ジャンル)の作品を作っていただきたいのです」  紫式部は首をひねった。 「例えば、日記(エッセイ)は実際に起きたことを面白く書く事実小説(ノンフィクション)です。これだと本当に起きたことしか書けません。早晩、読者も飽きてしまうでしょう。そこで先生には、実際にはいない登場人物を使って、本当の小説(フィクション)を作っていただきたいのです」  柄部は熱い口調で語った。 「でも、あたしにできるかしら?」 「先生なら書けます! 試しに骨組み(プロット)を書いてみてください。それをたたき台にして、話し合いましょう」 「主題(テーマ)は何にしましょうか?」 「そうですねぇ…… 女性読者が食いつきやすい『恋愛もの』はいかがでしょう? 女流作家が描く恋愛絵巻。これはウケ(ヒットし)ますぞ!!」    柄部も清少納言と組んだ『枕草子』以来の流行(ヒット)の兆しに、心弾ませた。
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