平安京の編集者

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「イヤ~ 先生! 凄いですよこれは!!」  柄部は第一稿を読んで興奮気味に話す。 「女性の好きな高級貴族の夫(スパダリ)と溺愛を、天皇(みかど)で描くとは…… この桐壺という女性登場人物(ヒロイン)も、下層階級の出身という設定がイイ! 夢があります」   こうして、紫式部の運命を変える一冊、『源氏物語』が誕生した。 「先生、ぜひ主人公は超絶容姿端麗(イケメン)魅力的(ハイスペ)にしてくださいね。女性読者にはまります」 「母親への愛(マザコン)も、主人公が幼少期で死別しているならありですな」 「ここで不倫要素を入れてください。奥様方に人気が出ます」 「寝取られ(NTR)も入れましょう、読者が期待(ワクワク)します」 「この六条御息所って女性、生霊として出てくるのはどうですか? 恐怖(ホラー)も人気がでます」 「紫の上の年齢を下げましょう。幼女趣味(ロリコン)男性読者も取り込めます」 「男性読者が増えてきたので、一夫多妻(ハーレム)描写もお願いします」  巻が進むたびに柄部の注文は多くなり、紫式部は、これでは自分が書いているのか、柄部の作品なのか分からなくなってきた。しかし、爆発的に流行(ヒット)した自分の小説に、承認欲求は満たされていった。  
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