平安京の編集者

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「ごめんなさい。もう書けません」  紫式部は締め切り前、白紙原稿の前で涙ぐんだ。 「先生、困りますよ。こんなところでお手上げしては(エタっては)。大体からして、先生が『光源氏をもう殺したい』って言ったんですよ。この41巻の『雲隠れ』だけは書いてもらわないと……」 「もうだめです。許してください」  紫式部は人気作品を作った故に、読者や柄部から完結を許されず、かといって題材(ネタ)も出てこず、完全に書く気力(モチベ)がなくなっていた。 「仕方がない。この巻は白紙で出しましょう。ある意味、白紙にすることによって、光源氏の最後を読者に深く印象づけ(アピール)出来るかもしれない。でも先生、この後(エピローグ)は書いてもらいますよ」  光源氏の死後の物語は12巻続いたが、光源氏という主人公(ヒーロー)不在の物語はだんだん読者が減り、柄部も完結を指示した。  世界最古の小説という、運命の一冊を書き上げた紫式部は、それ以来作品を執筆することなく、ひっそりと消えていった。 (了) ※次頁 解説あり
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