0人が本棚に入れています
本棚に追加
おもわず、窓にへばりつく。
となりでシートベルトをはずす音がした。
私のものではない叫び声と、激しい足音、何かが倒れる音がした。
妻が、席を立って逃げていく。
不思議なことに、他の客は慌てたようすさえなかった。
私たちは亜鶴クリニックに戻った。
仕事は順調だ。
妻も、しっかりやっていると思う。
だが、心は凍てついたままだ。
「友笑とは、話し合えていないままね」
そうだな。
あの店のSNSを見ると、元気そうだがな。
あのケンカした日から、ずっと考えてきたことがある。
「何なの? 」
あの山で見たことだ。
君だって、信じられないだろ?
サンカイザー。
それを疑いもせずやって来た自衛隊のヘリコプター。
そして、数日分の時間、数十キロメートルもの距離を消したかのような、私たちの下山ルート。
飛行機から見た、百万山の頂上の何か。
「それは、そうだけど」
本当にそれがあったのか確かめるためには、私たち自身がもう一度あのルートを旅するしかないんじゃないかと思うんだ。
「そんな!
危険よ! 」
そう、確かに危険だ。
でもあの山には何かがある。
ほら。
最初のコメントを投稿しよう!