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<起> 二つのガチャフィギュア、そこからすべてが始まった
「タカヲにーちやん、これあげる。」
「なんだよ、ノックもせずに。」
「えー、なんかヤバいことでもしてたの?」
妹のサキはニヤリとする。
彼女が指で掴んで水戸黄門の紋章のように差し出したのは、ガチャフィギュア。
スパイの家族のアニメ、娘の子のキャラクターだった。
「なんだ、お目当ての(パパ役)出なかったのか?」
「うっさいわねー! いらないならあげないよ。」
「わかったわかった。もらっとく。」
僕はうやうやしく手を差し出し、小さなフィギュアを受け取った。
妹はドアをバタンと乱暴に閉めて出ていった。
机に二つのミニ・フィギュアを並べる。
最近駅前にできたガチャコーナーで試してみたが、カプセルから出てきたのは妹からもらったものと同じ。
ホントは、その子のお母さん役を狙っていたんだが。
……まあいいや。この子は双子という設定にしよう。
しばらくして。近所のコンビニで『一番くじ』なるものが始まり、試してみた。
ビギナーズラックか、一等のフィギュアを当ててしまった。
ウマの尻尾と耳の生えたキャラ。
そこから僕のフィギュア道が始まった。
ネット通販から、アキバのリアル店舗まで。
僕の部屋には指数関数的に彼女らが増えていった。
そう、すべて妹が悪いんだ。
「最初にガチャ回したの、お前だぞ」そんな声が聞こえた。
ドキっとして周りを見回すと……ドアの隙間から妹が覗いてニヤニヤしていた。
<承> 五十体分の大掃除
だいたい隔週ペースで「クイックルハンディ」で埃を払っているが、
この年末は忙しく、二か月ほどサボってしまったので、
うっすら埃をかぶったフィギュアちゃんもいる。
「ごめんな」と謝り、お気に入りのフィギュアの埃を丁寧に払う。
「きゃっ、くすぐったい! タカヲくんのエッチ♡」という声が聞こえた。
びっくりして周りを見回すと……ドアの隙間から妹が覗いてニヤニヤしていた。
<転> 超・変わり雛
三月二日。
母「サキ、もう明日よ! いい加減お雛様、飾っちゃいなさい。」
サキ「はーい……タカヲにーちやん、雛壇だけでも手伝って♥️」
タカヲ「しょーがねえなー。」
◇ ◇ ◇
一時間後。
タカヲ「ほらサキ、できたぞ。後はじぶんでやれよ。」
サキ「ありがとう。」
◇ ◇ ◇
三十分後。
サキ「あー、お内裏様とお雛様を飾るだけで、いっぱいいっぱいだわ、今どき七段飾りなんて、もう無理……そうだ! いいこと思いついた。」
◇ ◇ ◇
三月三日、深夜。この住まいの家族が寝静まったころ。
毎年恒例でひな壇に飾られた人形たちが動き出し、打ち上げが行われている。
お姫様「ねえ、お内裏様、今年の後夜祭のメンツ、ヤバくありません? なんかセーラー服の三人官女だったり、五人囃子は耳と尻尾が生えてるし、スクール水着の娘もいるわよ。」
お内裏様「ああ、これはだな、サキ殿が無精されて、兄上のお宝を並べなさった結果じゃ。今年は『フィギュアの七段飾り』なってしまったのじゃ、ハッハッハ。」
お姫様「もう! 笑い事じゃありませんわ。なんか落ち着きませんし……」
お内裏様「まあ、これはこれで、よいではないか。目の保養にもなろう……(お姫様、ここでヒジ鉄)、ゲホッ」
お姫様「離縁!」
<結> 二百の瞳
「おはよう。いったい、君たちはいつ寝ているんだい?」
ボクは目を覚ますと、部屋の棚にずらりと飾ってある自慢のコレクションに朝の挨拶をする。
百体のフィギュアちゃんたちに向かっての、われながらキモイ儀式だ。
そして、二度寝しようと目を閉じる。
ほどなく。
「おはよう、タカヲくん。わたしたちは眠らないで、一晩中見ているよ。キミのことを・・・何もかも。」
がばっと飛び起きる。
ドアがガチャンと閉まり、廊下をタッタッタと走り去る音が響く。アハハハという笑い声とともに。
妹め! ・・・またやりやがったな!
(了)
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