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ディスプレイを見つめながら、紫希は歯噛みした。
おそらくパピヨンは息を潜め、長崎揚羽の作品を剽窃した。
その「おそらく」は限りなく「間違いなく」に近い。信じたくない、という気持ちが辛うじて「おそらく」に留めているだけだ。
いずれにせよ、時は戻らず、そして「漆身呑炭」が「破邪のつるぎ」より先に公開されていた作品と示せる根拠が、今の紫希にはなかった。
それでも同時に、紫希が、ようやく手放せたことがひとつだけあった。
自身に才能がない、などということはない。目指す方角は間違っていなかった。積み上げてきた経験は確実に、自らの血肉になっていた。
きっと今こそ、その力を振るう時の中にいる。エンドロールにはまだまだほど遠い、この退屈な人生を彩るため。
そして、命を削って創り上げた物語を奪っていった者へ、引導を渡すため。
なにより自分にとって、その剣もまた、いまここにはない物語だと思うから。
「いまなにしてる?」と書かれた、少し脱力してしまう入力フォームをクリックした。
《【お知らせ】
皆さん、ただいま。お久しぶりです。
長崎揚羽、紆余曲折を経て、創作の世界に戻ってまいりました。
これからも私は、私にしか出来ない羽ばたきを皆さんにお見せします》
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