スワロウテイル

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パピヨン〈長崎揚羽さん @ultraviolet1824 の「コアビタシオン」を読みました! せっかく一緒にいるのなら一グラムでも多く自分と溶け合える人を選びたいけど、なかなかそうもいかない。お互いの考え方がぶつかり合ううちに尖った部分が粉々になって、最終的に混じり合えるのかもしれないなーと思うラストが素晴らしかったです!〉 「パピヨン」は揚羽の作品をいつも読んでくれているフォロワーだった。フォロワーの総数自体はそれなりの数字になったけれど、その全員が毎回作品を読んでくれるとは限らない。ずっと読んでくれていたフォロワーも、ひとつふたつと出来の良くない作品をアップすれば、静かに離れていくのが常だった。  特にこの界隈は「読んでほしけりゃ先に自分のを読め。言っとくけどレビューは辛口だから(笑)」という傲慢極まりない条件提示でもまかり通ってしまう。みな一人の「書き手」として承認されたがっているからだ。そんなことをせずとも、こうして感想を寄せてくれる読み手が存在してくれているだけ、まだ揚羽は恵まれているほうだと思う。 長崎揚羽〈@blue.m.s パピヨンさんいつもありがとうございます! 公開した作品にこうして感想をいただけることが、本当に心の支えになっています……!〉  感謝も愛情も、おいそれと口にできない感情のくせに、いざ言葉にするとどうしてこんなにも空虚に響くのか。自分がパピヨンに対して抱いている感謝の心は確かにここにあるのに、ちゃんと混じりっけなく届いているのか不安で仕方がない。誰にでも同じこと言うんだろ……って、それはそうだ。あの人の「ありがとう」は要るけどお前のは要らない……なんて、どんなハラスメントだ。「お客様は神様」とは確かに売り手側の言う台詞だが、等しく感謝を伝えてくれる存在を選別する権利など、ありはしない。少なくとも今の長崎揚羽にはないと思った。  なかなか大空にはばたくことのできない揚羽を尻目に、パピヨンはウェブ以外の公募コンテストにも作品を応募し、時折「受賞しました」のポストをしては周囲から賞賛の言葉を浴びていた。普通に考えたら、そんなパピヨンが揚羽の作品に「素晴らしかった」とコメントをすること自体が異常だとさえ思った。それでも確かに、揚羽はパピヨンの感想を精神的支柱に、長崎揚羽という一隻の船の竜骨(キール)に、そしてビルとビルの間に渡された一本の鉄骨にしていた。揚羽はずっと飛び立てなかったところへ、パピヨンにより「読者の反応」という揚力を与えられたのだった。  ふわり、と地上を離れてゆくこの感覚を永遠に忘れたくない。ひとたび驕り高ぶれば最後、乱気流に巻き込まれて墜落するか、悪意という名の虫取り網に捕らえられてしまう。今もこうして吹き抜けてゆく、心地よくも確実に自分を浮かび上がらせてくれる風をコントロールし続ける。揚羽はその誓いを胸にしながら、取り憑かれたようにキーボードを叩いた。
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