スワロウテイル

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 タンポポが綿毛を散らすように次々と公開した揚羽の作品は、大きく話題になることはないにせよ、誰からも見向きもされないような有様にはならなかった。必ず数人はいつも「いいね」やスターを送ってくれた。そのうちのひとりには、必ずと言っていいほどパピヨンがいた。  ウェブ小説の世界とは、一握り存在する本物の才能の権化、誰も読まなくても公開することに意義があると考える者のほか、大部分を「そこそこ読めるものを書くが、目立ってすごいわけではない存在」が占める。もちろん長崎揚羽もその「大部分」にカテゴライズされる存在だった。  とてつもなく下手なわけではなくても、決定的な何かが足りない。あともう少しキラキラした粉が撒かれるだけで大化けする予感はするのに、その粉がどこにあるのか分からない。きっと「才能」とは、何もないところから何かを生み出すというよりも、どこに何を混ぜれば化学反応を起こすのか……が分かることを指すのだろう。  だからなのか。  思いつつ、小説投稿サイトのマイページを開く。ベルのマークがついた通知欄に赤いバッジがついた時は、誰かが自分の作品に「いいね」を押したり、コメントを残したことを示している。ざわ、と全身の毛が逆立つ。いつからか、このベルをタップする時には祈りを捧げている自分の存在に気づく。どうかこの先に、願った相手の名前が残っていますように――と。 〈モクレンさん、他3人が いいね! しました〉  問題はこの「他3人」に、揚羽が願ってやまない名前が含まれているか……という一点だった。敢えて「3」の上に人差し指を置く。ストレスのせいか、最近は気づくと噛んでしまうようになって、爪の先の白いアーチはいびつなアウトラインを描いている。その原因が何なのかは、もはや火を見るより明らかだった。  果たして、パピヨンの名前は「他3人」に含まれていないことが分かった。  思わずスマートフォンを放り投げる。狙いが外れてベッドの上でなく、黒い板はそれを通り越してベッドと壁の隙間に落下してゆく。追いかけて拾い上げる気力もなくなった揚羽は、ベッドと反対側の壁にもたれて座り込んだきり、しばらく動くことができなかった。
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