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「ほんと、ごめーん」と言いつつ、私たちはリビングに移動した。ソファベッドの背もたれが倒れ、くしゃくしゃのタオルケットがかかっている。昼寝をしていたのだろうか。やっぱり事前に連絡しておけばよかった、申し訳ない……。
と思ったところで、足もとの違和感に気づいた。
「あれ、カーペット変えた?」
あのムートン風のカーペットが無くなっていたのだ。代わりにもっと色が濃く、ペラペラで、ビニールみたいな質感のものが敷かれている。季節に合わせて薄いカーペットに変えたのかもしれないが、ぶっちゃけ安っぽい。
ローテーブルにケーキを置いたいづみも、やはり落ち着かないようすで立ちつくしている。
「なんだか、お部屋のようすが……あっ」
私はいづみの視線の先を追い、目を疑った。ソファの奥、壁際に置かれた木製ラックが空になっている。奈々瀬の、あの小さな美しい小物類がすっかり消えているのだ。
驚いてさらに一歩踏み出す。そのとき、近くでがたっと物音がした。
「?」
私は振り返った。奈々瀬はまだキッチンに立っており、いづみはローテーブルのそばだ。今の何? と聞きかけて、いづみの表情がこわばっていることに気がついた。妙な顔つきのまま、口をパクパクさせる。
「何?」
聞き返すと、もどかしそうに一瞬だけ下を見た。私の足もと、の隣のソファベッド。今度はひと言ずつゆっくり口を動かす。
(し た に)
誰かいる。ソファの下に。
最後まで言わせずとも理解できたのは、いつも一緒につるんでいるせいか。
同時に、私の脳内で一つのシーンが浮かび上がった。体調を崩し、ソファベッドで休んでいる奈々瀬。その隙をついて、どこからともなく――たぶんベランダからだ。玄関ドアはチェーンがかかっていたので――部屋に入り込む不審者。男は眠る奈々瀬に近づくが、そこにインターホンが鳴る。目覚める奈々瀬。男はやむなくソファの下に潜り込み……。
「駒ちゃん?」
いづみの声を無視し、私はソファの側面を思い切り蹴った。重量のあるソファが急にゴトゴト動きはじめる。そして、私のいる方とは反対側から男が飛び出してきた。
「きゃあっ、やだっ」
いづみがGを目撃したかのような悲鳴を上げる。私は怒鳴った。
「誰だてめえ!」
我ながら、女子大生とは思えない野太い声が出た。ソファの下から這い出てきた男は床の上に座り込み、「待って、落ち着いて!」と腕を上げる。その両手になぜかスニーカーがはまっており、イライラがさらにつのった。
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