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「いづみ、警察」
「うん」
「ちょっ、それは」
スマホを取り出したいづみを見て、男が腰を浮かせる。私はペットボトル入りエコバッグの持ち手を拳に巻きつけ、その前に立ちはだかった。
「変態野郎、これ以上近づいたら……」
「待って、駒ちゃん!」
一触即発の状況に割り込んできたのは、奈々瀬だった。沸いたばかりのヤカンを片手に、青ざめた顔でこちらを見ている。
「ごめん、二人とも。違うの」
「はあ?」
ものすごく嫌な予感がした。いづみもスマホの操作を止める。
「奈々ちゃん、知り合い?」
「その、実は……私の彼なの」
私の手からエコバッグが滑り落ち、ボクンと音を立てた。
「そうなのよ、ごめんねー」
男はヘラヘラ笑った。
「付き合い出したのは、二か月くらい前かなあ」
ソファに寄りかかる男を前に、私といづみは顔を見合わせた。奈々瀬の付き合いが悪くなりはじめた時期と一致している。
お互いを紹介した奈々瀬は、「お茶を準備するから……」とキッチンに戻ってしまった。私といづみはローテーブルを挟んで、その彼氏と対面している。
「彼氏なら、なんで隠れたのさ」
「おれが隠れたかったわけじゃないのよ? ナナに言われたからさあ」
そりゃあ隠したくもなるよな。私は改めて男を見た。さっきまで寝ていたのだろうか、頭の片側にひどい寝ぐせがついている。ぱっと見はイケメンぽい顔つきをしているが、よく見れば肌は荒れ、口もとはだらしなく緩んでいた。こんな奴のどこに引っかかったんだろう、奈々瀬は。
「ナナぁ、ビールある?」
その奈々瀬に向かって、男がとんでもないことを言う。んなもんあるか、うちら十九だぞと思っていたら、奈々瀬は黙って冷蔵庫を開け、なんと缶ビールを取り出してきた。思わずいづみと目くばせする。その間に男はケーキの箱を開けはじめた。
「おっ、めっちゃうまそうじゃん。ナナ、お皿と包丁も頼むわー」
「お前のじゃねえよ!」私は男の手を払いのけた。「だいたい、彼氏なら手伝いくらいすれば。奈々瀬が疲れてるのがわからないの?」
「いやあ、ナナは好きでやってるんだから」
唖然とする私たちを前に、男は相変わらずヘラヘラしている。
「週末は大家がいないから来てって、誘ってきたのはナナの方だし。ゆっくりすればーって言うからさあ」
なんだこいつ。Gだと思ったら寄生虫か?
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