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「おー、それな!」
私は笑っていづみを指差し、ハイタッチしようとした。いづみは乗ってこなかった。
「どうしたのさ、真顔になっちゃって」
「こういうふうにも考えられるよね」
いづみは言った。
「奈々ちゃんは、あの男と別れたかった。でもあいつはなかなか別れ話に応じようとしない。何事もきっちりけじめをつけたい奈々ちゃんは、自然消滅を待つこともできなかった。ストレスが極限まで高まって……殺すことにした」
「はあ?」
私は間抜けな声を上げた。いづみは話し続けた。
「あいつ、奈々ちゃんに呼ばれて来たって言ってたでしょ。大家さんのいない日を見計らったのかもしれない。あいつが来ることになって、奈々ちゃんは支度をした。部屋を汚さないために防水性のあるカーペットを用意して、割れ物は前もって片付けておいた。自分は汚れても構わない服装に着替えた。死体をどうするつもりだったのかはわからない。でも大家さんは土地を持ってるし、奈々ちゃんはトラックを運転できるんだもんね?」
私の脳裏に、軽トラの荷台に積まれたブルーシートとスコップが浮かぶ。
「でも、あいつも一応男だよ。抵抗されたら……」
「相手が素面ならね。お酒を飲むとわかっていれば、そこに何か薬を入れる準備はできたと思う。奈々ちゃんは先週二十歳になってて、自分でビールも買えたし」
ビールに何か入っていたかもしれないというのだ。確かにあの男、妙にふらついて口調も怪しくなっていた。そのビールは結局、いづみが流してしまったけど……。
「わかっててやった?」
私の質問に、ゆるふわずる賢女は「えぇーわかんなーい」と答えた。とりあえずシメた。
「ただいまー。お肉買ってきたよー」
というわけで、私たちの友情は復活した。すっかり冷え込んできた今日このごろは、毎日のように三人でお鍋を囲んでいる。
「ああ、もうおなかいっぱーい」
「お茶飲もうか? 入れるね」
「安定の実家感……」
寝転ぶ私を、皿を片付けるいづみが「行儀悪いよー」と睨んでくる。ムートン風のカーペットは相変わらず、ほわほわで心地よい。ラック上の小物類もいつの間にか戻って来ている。それについては誰も何も言わない。
「それで、実はね」
急須でお茶を入れながら、奈々瀬は話を切り出してきた。なんと、次の彼氏ができたらしい。やはり世の中、キレイめカジュアルが勝つようにできているのか。
紹介してもらったその彼は、バイト先の先輩で、一つ年上で、もさっとしているけど良い人そうだ。見た目どおりの人だといいなと思う。
彼のためにもね。
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