唐突

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    「別府さん、その話はもうやめてくれないか…。鬱入るし…。」     彼女の言った話をあっさりかわして階段を下りて校舎を出る。少しくねった外廊下を歩きながら高津は次なる話相手を見つけたようで、その二人にも声をかけた。自分はある出来事から口数が少なくなったとよく言われるようになった。それは先程の別府さんの話で察して欲しい。     「田中君は男前やし、他に女の子見つかるって。私も田中君に告白したけど…。」     「ああ、そうだったね…。」     自分の気に入っていない顔が男前と言われても自信はなかった。コンプレックスと言うのか…小学生中学年の頃にカッターナイフで遊んでいたら誤って左目の1センチ下から約5センチに渡って切ってしまったこの顔を…視力は幸いどうもなかったものの数針は縫うこととなり、その跡のおかげで嫌な思いもしてきたのだ。     「田中、いつまでしょげてんねん。しっかりせんかい!」     不意に背中をバンと押されて後ろを振り向くといかつい顔した男が仁王立ちになって自分を見ていた。その男は畜産科に所属する真島賢治。背の高い図体からは想像出来ず俊敏・俊足で陸上部にいながら実家は剣道の道場の師範代も務めているらしい。自分はこの真島が剣道をしている姿を一度もみたことがないので定かではないが…。     「アホやなぁ…あんな高嶺の花に手ぇ出すなんて…。一ヶ月経ったんやからちっとは忘れ…な?」     その顔で慰めて欲しくないと言いたかったが知らぬ間に体育館の入口の前まで来ていた、上履きに履き換えながら真島に反論しようとした。    
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