江戸での暮らしと不穏な影

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江戸での暮らしと不穏な影

香澄がそう言い切るなら、仕方ねー。 俺は香澄が病気にならねー事を天に祈った。 「それからお主には、丁稚から聞いたかもしれないが、近頃この辺も物騒でな。居室を教えてから武士に剣術指南を受けてもらう」 爺さんは、「もう向こうさんの許可は、とっているからな」と付け加えた。 向こうの許可は良いとして、コッチの許可は、どうなんだよ。 まあ、他にやりてー事はねーし、それこそこの辺が物騒なら、守護することで恩は返せるかもしれねー。 「わーった。だが、何が物騒なんだ?」 「この旅籠の金品を狙っている輩が居るのだ」 確かに、これだけデケー旅籠なら、金持ってそうだって、泥棒に狙われてもおかしくねー。 だが、只、金持ってるからって、そうそう狙われるだろうか? 鈴木も同じ事を思ったらしい。 「ご主人。無理には聞きません。この旅籠には何か秘密があるのではないですか?」 爺さんは、しばらく黙っていたが、やがて口を開いた。 「ここだけの話、この旅籠には不正を犯した役人の証書を隠してあるのだ…」 「何故、ここに…?」 「役所も、そう思って私に預けた。だが、最近になって嗅ぎつけてきた不正者達がいるのだ」 つー事は、不正を犯した連中が、明るみに出るのを危惧して、この旅籠を狙っている訳か。
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