江戸での暮らしと不穏な影

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お花をお薬と一緒に買って帰ったら、お爺さんの奥さんも喜んでくれるかなぁ。 そう思って僕は黄色い菊の花を手に取った。 まさか縁起の悪い花だとは、この時は知らなかったんだ。 「それにしますか?」 茜ちゃんが優しく訊く。 黄色は、僕の大好きな色だ。 お爺さんの奥さんも、きっと喜んでくれる! そうウキウキしながら、お金を払った時、お団子とあったかいお茶が運ばれてきた。 「そういえば、しばらく茜ちゃんのお父さん、見てないけど、元気?」 お店の人がお盆を抱えながら、茜ちゃんに訊く。 茜ちゃんはお茶に息を吹き掛けながら応えた。 「それが、お役所のお仕事が忙しいみたいで、毎日、帰りが遅くなっています」 「お役所?!」 確か、お爺さんが最近、役所で不正行為をしてる人達が旅籠を狙っているって言っていたけど、まさかね。 僕の声に、茜ちゃんもお店の人もビックリしている。 僕は何とか良いごまかし方を考えたけど、思い付かない。 と、茜ちゃんが言った。 「もしかして、お役所のお仕事に興味があるのですか?…えーと…」 茜ちゃんは、困ったように言い淀んだ。 そういえば、僕、まだ名乗ってもいなかった。 「あ、僕はね、山村凌!お役所の中って普段は入れるのー?」 「山村さん。手続きの折には入れますが、奥までは、興味があるだけでは、なかなか入れないと思います」
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