越後屋、襲撃

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越後屋、襲撃

「…と、流れてきました」 何回目になるか、解らない読み聞かせで奥様の返事が無い。 「奥様?」 私が本を退けて奥様に視線を移すと、奥様は静かな寝息を立てていた。 私は本を閉じると、奥様を起こさないように、そっと部屋を後にしようとした。 すると、その時。 バタバタバタと足音が廊下の方から聞こえてきたかと思うと、襖がノックも無しに開いた。 「香澄ちゃん、良かったあー!いたー!僕、町で咳に効くお薬とお婆さんにお花を買ってきたよう!」 急いで帰って来たのね。 山村先輩が、息を切らして立っている。 その手には、お薬が入っていると思う小さな紙袋と、菊の花が握られていた。 …って、菊の花?! 「山村先輩。奥様は今、眠ったばかりだから…」 「あ、ごめん」 自分の口に手を当てて、小声になる山村先輩。 「それに、そのお花は亡くなった人に手向ける花なの。奥様に渡すのは、ちょっと…。せっかくだから、私が貰っておくわ」 「ゔゔ…ごめん…」 その時、背後から奥様の声がした。 「コホッ!…良いのよ。せっかく買ってきてくれたんだもの。お薬もお花も有難く頂くわ」 振り返ると、眠った筈の奥様が目を覚ましてしまったみたい。 こちらに顔だけ向けて微笑んでいた。 「お薬は良いとして…お花は本当に良いんですか?」
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