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「仕事してて、人を変えるのは無理だって思うようになったの。だから私は余計な希望を持たないでいられるんだ」
「どうして希望を持ったらいけないんですか?」
「忠告しておくけど、高垣のは希望じゃなくて欲望だよ。坂下さんが佐久間に振られればいいって思ってるでしょ? それで、自分のところに帰ってくればいいとか……」
言ってしまって、言いすぎた、と気づく。
高垣は信じられないという顔で、私を見ていた。
「いや、ごめん。勝手に決めつけて」
「いいえ。香山さんは悪くないですよ。僕、香山さんに近づいて、佐久間さんの悪いところや弱みを見つけたら、藍菜を取り戻そうと思ってますし」
「それは……やめた方がいいよ。高垣のそれは、あんまり良くないと思う」
高垣の目的がはっきりして、利用されるために近づこうとされていたのがわかったのに、案外私はショックを受けていなかった。
それよりも、必死に坂下さんを取り戻そうとしている高垣が、もうひとりの自分みたいに思えて痛い。
「なんでそんなことが言えるんですか? 香山さんだって佐久間さんと復縁できたらいいと思ってるんじゃないんですか?」
「そりゃ、未練はあるし、今だって佐久間のことは嫌いになれないけど、でも取り戻すとか、そういうのは望んでない」
自分の中から振り絞るように言いながら、果たしてこれは本心だろうかとすら思ってしまう。
高垣に語ることで、自分に言い聞かせたいのかもしれない。
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