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「なんでそんな頃から付き合ってたのか、って聞きたそうな顔ですね」
「うん。わかる?」
坂下さんに彼氏がいるという話を聞いたことがない。
でも、実際は年上で社会人の彼氏がいて、それも入社した会社の先輩だったってこと?
「ええと、ごめん、ちょっと混乱してるんだけど……高垣って坂下さんと大学が一緒だったっけ?」
「大学は一緒じゃないですよ。僕の後輩が彼女と同じ高校で、何度か大学に来ていました」
「ああ、そっか。あんなかわいい子が学校に来てたら目立つだろうね」
いや、それよりも。高垣が坂下さんのことを誰にも口外しなかった事実が改めてすごいなと思う。
私だったら、自分の会社に彼氏の内定が決まったら誰かに言いたくなる。
しかもあんなにかわいい子が彼女だなんて、自慢したくなると思うんだけど。
「ちなみに、坂下さんとはどのくらい付き合ってたの?」
「ええと、3年弱……ですかね」
「長っ。高垣って、会社入って今年で3年目でしょ?」
「そうです」
え、まさか。坂下さんって高垣を追いかけてうちに入社したの……?
それで、会社が一緒になったら半年で別れちゃったってこと?!
「香山さん、顔に全部出てますよ」
「えっ?!」
「いやでも、そういうことなんですよ。学生時代によく見えた相手が同僚になって、幻滅しちゃったんじゃないですかね」
「いや、仕事中の高垣に幻滅はしないでしょ」
高垣は会社でアートディレクターとして働いている。
社内のデザイナーをまとめてプロジェクトを指揮していて、若いのにリーダーシップがあってすごいなと思っていた。
何より、美術的なセンスがいいし、勘や筋がいい。
「でも、佐久間さんみたいなディレクターにはなれません」
「どうかな。高垣はどんどん伸びると思うけど。飲み込み早いし」
素直に褒めると、高垣は目を丸くして私を見た。
なんでそんな顔をしているのか。
「香山さんて、そんな風に人を褒めたりするんですか?」
「感じ悪いなあ……高垣は優秀だもん、そりゃ褒めるよ」
私がそういうと、高垣は口をあんぐりと開けていた。
後輩のことを褒めただけでこの反応。
私、社内でどんな人だと思われてるんだろ。
「ありがとうございます。香山さんってお世辞は言わなそうなので、喜んでおきます」
「そうだね、お世辞は言わないかも」
そう言って高垣に笑うと、笑みが返ってきた。
さっきまではこの世の終わりのような気分だったのに、なんだかモヤモヤとした気持ちが晴れていく。
「高垣もさあ、あんまり思い詰めないでね」
「はは、香山さんが言わないでくださいよ」
「そうなんだけど」
さっきまで泣いていた私が偉そうに言えることではない。だけど。
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