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スマホの画像に彼女との写真は残っていない。康介さんは証拠を絶対に残していないだろう。 雪乃は康介のスマホから彼女にメッセージを送った。 ─────《ラインのメッセージ》───── 雪乃『急だけど、今日の6時からエグゼホテルのディナーを予約してるんだけど行かない?』 彼女と昨日会っていたわけだから、真奈美さんのご主人は週末こっちに帰って来ていないだろう。 ならば土日、彼女は家にいる可能性が高い。 真奈美『どうしたの?今日は奥さんの誕生日ディナーだって言ってたじゃない?都合が悪くなったの?』 雪乃『妻が急に実家に帰らなくならなくなった。キャンセルするのはもったいないから、行ってきたらと言われた。時間が取れるなら君はどうかなと思って』 真奈美『そうなのね。両親に子供たちを預かってもらって、行くわ』 雪乃『良かった。ホテルの37階スカイレスト、ランシャノアールに6時。河津の名前で予約している』 真奈美『分かったわ。昨日も会ったのに、今日も会えるなんて楽しみ。泊まれるの?』 雪乃『部屋も予約してる』 真奈美『両親に、泊りで預かってもらえるか聞いてみるわね。ありがとう。好きよ、愛してる』 雪乃『じゃぁ、6時に待っている』 ─────────────── 雪乃は康介に成りすまして彼女にメッセージを送った。 そしてキッチンへ行って、タオルにくるみ肉叩きハンマーを持って来た。 「康介さん、真奈美さんにメッセージを送ってみたから読んでくれる」 康介は自分のスマホを見て、真奈美さんと雪乃のやり取りを読んでいく。 驚愕した表情で雪乃を見た。 「な、なんで……!」 最後まで読んだところで、康介が彼女に連絡しようとしたのでスマホを取り上げた。 そして夫のスマホをテーブルの上に置き、ハンマーで液晶を割った。 ガシャ! 「うわぁ!」 康介の肩がビクンと上がる。 壊れた自分のスマホを見てなす術もなく康介は青ざめていた。 「弁償するわ」 「……なんて、ことするんだ……」 『絶望』とはこういう時に使う言葉なのかもしれない。康介は頭を抱えて目を閉じた。 「これで、彼女とは連絡が取れないでしょう。けれど、彼女は時間がくればレストランで待っている。泊まる準備をしているかもしれないわね。お子さんを実家に預けて、あなたが来るのを楽しみにずっと待っている」 「君は……」 「離婚しましょう。きっと康介さんは私をもう愛する事はないでしょう。彼女のところへ行ってあげて。待ちぼうけは可哀そうよ」 康介は振り返って壁の時計を見た。 今は3時だ。 「こんなことをしなくても、真奈美とはちゃんと別れた」 「私は、彼女と別れてなんて言っていないわ。私と離婚してと言っているのよ。申し訳ないけど、次の住まいが見つかるまで、多分長くても2ヶ月。それまではここに住まわせてほしいの」 康介は何も言えずにただ黙っていた。 「私たちには子どもがいないし養育費の必要もないわ。私は自分で仕事をしているし、これからの生活に困るわけでもない」 「君はそれでいいの?俺を愛しているって言ってくれただろう」 康介の目に涙が潤んでいるような気がする。 「ええ。愛しているの。でも、一方通行じゃ駄目でしょう」 「……俺は、離婚したくない。時間をかけてちゃんと話し合おう」 雪乃は首を横に振った。
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