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雪乃はホテルの入り口が見える路上、電柱と看板の後ろに隠れるよう立っていた。 夫と女性が出てきたところを撮るつもりでスマホを構えている。 (時間的に夫がもうすぐ出てくるだろう。しっかりと映像に残そう) 先程カフェで浮気の証拠集めについて検索した。 画像ではなく動画で残すのがいいと書いてあった。 けれど雪乃は夫が言い逃れできないように浮気現場の証拠を残そうと思っている訳ではなかった。 自分がちゃんと現実を受け入れられるように映像に残さなければと感じたのだ。 (私は康介を愛している。出会った時のまま、今もずっと彼のことが好きだ。けれど、その気持ちが一方通行なら意味がない) さっき綾ちゃんが言った通り、惨めになるくらいなら諦めなければならない。 雪乃にはまだ子どもがいない。 自分は仕事もしっかりしているし、収入もちゃんとある。自分はひとりで生きていく選択ができる。 涙が頬を伝う。 (私は、強いからきっと大丈夫だ)
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