8

1/4
前へ
/51ページ
次へ

8

前島さんと次の水曜は仕事帰りにスーパーで買い物をしてから、一緒にアパートへ帰ろうと約束をした。 重い買い物袋を前島さんが持ってくれた。 まるで夫婦のようだなと雪乃は思った。 「あなただって浮気してるじゃない!」 後ろから女性の声が聞こえた。 「なに?」 振り返ると、そこには小林真奈美さんが立っていた。 「あなただって……浮気してるじゃない……」 彼女は目に涙を浮かべて、鬼のような形相で雪乃を睨んでいる。 前島さんは雪乃を守ろうと、真奈美さんとの間に体ごと入ってきた。 「自分の事は棚に上げて、康介の浮気を責めて、無理やり別れさせたでしょう?それに慰謝料請求ですって?酷い女ね」 「なに……」 「私たちは愛し合っていたのよ。それなのに、スマホを壊して連絡が取れないようにするなんて卑怯よ。自分だけ新しい男とよろしくやって全部自分のものにして満足?別れなさいよ!離婚してよ……康介さんを私に……ちょうだい」 「私は、あなたと話すことは何もありません。弁護士を通して」 急に突撃してくるなんて異常だ。 スーパーの帰りに、こんな目立つ場所で修羅場を演じるつもりはない。 「あなた知ってるの?この女は結婚しているのよ?立派なご主人がいるの。不倫関係になっていることを知ってる?」 今度は前島さんに向かって真奈美さんが突っかかってくる。 彼女は興奮している。 雪乃は、関係のない前島さんを巻き込みたくないと思った。 「この人は夫の不倫相手だった小林真奈美さんです」 前島さんに説明する。 「ここではなんだから場所を変えて話した方がいい。ご主人に連絡して、ここに来てもらおう」 前島さんが真奈美さんに話しかけ、道の端に誘導した。 「この女が、康介さんに私と会うなって言ったのよ。この女が、別れろ、二度と話をするなって言ったから康介さんは連絡をくれないの。全部この女のせいよ」 確かに、それが離婚しないための条件のひとつだった。 「雪乃さん。ご主人に連絡をした方がいい。ここに来てもらって」 前島さんが「落ち着いて下さい」と真奈美さんに声をかける。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

982人が本棚に入れています
本棚に追加