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雪乃は先程打ち込んだ用紙を康介の前にそっと出した。 「康介さん。離婚しましょう」 「……え?」 康介は虚を衝かれたように驚いて目を見張る。 そして雪乃がプリントアウトした用紙に目を通す。 離婚までにするべきこと、今後の予定と財産分与の内訳が書いてある。 「この部屋は、賃貸だし、今まで全ての費用を康介さんが払っているからそのままでいいと思う。私は新しく住む部屋が見つかり次第引っ越すわ」 康介は何も言わずに用紙をめくっている。 「家具や家電はそのままここに置いていく。私が買った物、ドレッサーとか本棚とかは私が持って行くわね。食器や調理器具は半分持って行かせてもらうわ、量も多いし邪魔になるだろうから」 「……ちょ、ちょっと待って」 「もう決めたから、私は大丈夫よ」 「冗談だよね?」 康介は険しい表情になり、焦りが伝わってくる。 「冗談じゃないわ」 しっかりと意志を伝えた。 「……な、なんで?」 康介の額に汗が滲んでいる。 雪乃はできるだけ、落ち着いて話ができるように呼吸を整える。 「康介さんは浮気をしているわ。私は自分が身を引きます。だから浮気なのか本気なのかは分からないけど、彼女との新しい人生を考えて下さい」 「は?何を言っているんだ」 「私は、自分に何が足りなかったのか、どこがいけなかったのか分からないわ。だけど、康介さんを大好きだったから、その気持ちは大事に持って行きたいの。嫌いになったり、責めたり、恨んだりしたくない」 「浮気なんて、何かの間違いだし。俺は雪乃を愛している。何か勘違いしてるんじゃないか?」 「勘違いはしていないし、嘘をつくあなたの姿は見たくない。慰謝料とかはいらないし、そこに書いてある通り、相手の方にも請求するつもりもないわ。ただ、離婚届にサインして、離婚すればいいだけ。弁護士に頼んだり、浮気調査に身を削ったり、ダラダラこの状態を続ける事は避けたいの」 「俺は……雪乃と離婚するつもりはない」 「あなたが拒否すれば、それだけ時間も労力もかかってしまう。無駄な時間は必要ないわ」 「無駄な時間ってなんだよ」 「私たちは半年ほどレスだったわよね?昨日はあなたと浮気相手の女の人がホテルに入って行くところを見たわ。出てくるまで待っていたの。動画も撮った」 「っ……それは……」 顔面蒼白とはこういう事だろう。 急所を衝かれ、狼狽している夫の姿は見たくなかった。 「大丈夫。責めるつもりはないの。許す許さないの問題でもないの。私から気持ちが離れてしまったんだなと思った」 康介は言葉を探しているようだ。 時間が過ぎていく。
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