一方的な調査会議

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「いいえ。会社の処分を受け入れます」  その場に居合わせた全員が、恭子に見えないように心の中で嘲笑(あざわら)っていた。恭子は二十数枚の書類の入ったファイルを差し出した。 「ただ『千年前の恋 源氏物語の世界展』の企画第一案。今日、プリントしてプロジェクト会議で検討するつもりでした。第二グループに提出しますので何かの参考に……」  恭子はファイルを大橋社長に手渡そうとした。 「あなたの企画原案なんか要りませんよ。杉野主任」  松山の意地悪い声が背後から聞こえた。大橋社長はファイルを床に放り投げた。プリントされた紙が床に広がった。恭子の忍耐の糸が切れた。涙がどっとこぼれ、化粧が台無しになった。恭子は企画書原案を拾い集めてファイルに収めた。 「第二グループの企画書はほぼ完成している。このイベントを通じて商品化やコラボを進め、大きな利益を挙げようとする優れた企画書だ。第一グループとは大違いだな」  及川部長が付け加える。 「それにだ。この会議はあなたに対する調査委員会で、あなたの作文を読む場ではないんだ」  高木総務部長が声をかける。 「処分が決まるまで自宅謹慎してもらおう。正式な書類はすぐ作成する」  恭子は企画原案を手に、たったひとりで会議室を出た。廊下の奥に山崎たちの姿が見えた。  彼らに背を向けた。涙がまたどっとあふれ出て何も見えなくなった。 けれども心の目は、日下健士のはにかんだ表情をしっかりと見つめていた。 (ごめんなさい。あれだけ助けてもらったのに)  涙の大雨が、手にした企画原案のファイルに降り注いだ。
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