父の思い出は悲しすぎて

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父の思い出は悲しすぎて

 杉野恭子は、今でも父親のつくってくれたチャーハンが世界で一番だと思っている。お米と卵、細かく刻んだネギとニンジン、たったそれだけなのに、一皿食べたらこれ以上ない幸福感に包まれてしまう。それに野菜もキチンと入っていて、栄養バランスがいいのだ。野菜嫌いの恭子だって、あっというまに食べ終えてしまう。  恭子の思い出は悲劇で終わる。父は小さな中華料理屋を経営していた。あんなに美味しいチャーハンをつくっていたのに、あんなにリピート率だって高かったのに、恭子が高校三年生のとき、父の店は閉店に追い込まれた。  看板ものれんも片付けられた店を去るときの父のあきらめきれない表情……。恭子は一生忘れないと思う。  それから四ケ月後、父は完全に何もかもあきらめてしまった。 <死亡保険金で、お父さんの借金を返してください> の手紙を残して恭子の前から去っていった。  父の保険金で借金は返したものの、恭子は大学進学を諦めた。
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