薔薇が咲く日

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 存在が奇跡だという青い薔薇に魅入る。なんて綺麗なんだろう。薬井さんならこの薔薇をどんな青で描くんだろうか。 「青い薔薇の絵、描いて貰えませんか?」 「え? 青い薔薇の?」 「はい。どんな青になるのか興味があって」 「なら、今度写真の現像したのと一緒に送ります。しばらくは締め切りで忙しそうだから今回は送ることにします」  確かに脚本と長編を同時に書く必要があるから忙しくなる。  息抜きくらいしたいけれど、長時間は無理だから郵送なのは助かる。そういう点、気が利くんだなと思う。 「息抜き用にたくさん撮っておくので忙しくなったらそれで癒やされて」  今、家にはソメイヨシノと八重桜の写真がある。そこにここの薔薇園の薔薇が加わる。花なんて詳しくはないけれど、ただ見ているだけで癒やされる。  薔薇の写真が現像されたら机の上の桜の写真は薔薇の写真に変えよう。  しばらく青い薔薇を見た後、また園内を歩いてまわる。オールドローズ、イングリッシュローズ、ミニチュアローズ、ツル薔薇とたくさんの種類があった。小さなミニチュアローズは可愛かったし、アーケードに絡みつくツル薔薇は見事だった。そして花も花びらが幾重にも重なったものだけではなく、一重咲きのもあった。 「薔薇ってたくさんの種類があるんですね」 「ここは250品種あるから見事ですよね。普通の花屋で見る薔薇って決まってるから、こんなにあると見応えがある。そうだ。ここにはないんだけど青い薔薇以上に珍しい薔薇があってレインボーローズっていう薔薇があるんです」 「レインボーローズ?」 「そう。名前の通りなんですけど、白い薔薇に特殊な植物性染料を吸い上げさせて内部から着色するみたいです。パソコンでは見たことあるけど、実物は見たことないんですよね。ネットでは売ってるから今度買ってみようかなと思ってるんだけど」 「そんな珍しい薔薇があるんですね。見てみたいなぁ」 「じゃあ買ってみようかな。もし買ったら写真撮って送りますよ。絶対に綺麗だと思うんです。そうだ、吸上げ着色の青い薔薇も買ってみようかな。DNA改良型とはまた違って真っ青だから」 「花、好きなんですね」  花なんて詳しくない俺に薬井さんは色々教えてくれる。それはきっと好きだから知識があるんだろうと思う。好きでもないものなんて興味ないから知識も増えない。  俺みたいに、咲いているのをただ綺麗だなと見ているだけでも知識なんて増えない。 「うち、母親が花が好きだったからいつも家に花があって。その影響だと思います」  やっぱりそういう下地があるんだろうな、と聞いていて思った。 「薬井さんの描く薔薇の花が見たいです」  写真集には花の絵もあったけれど、南国の花や国内では見ないような花ばかりだったので、身近にある花の絵はなかった。  薬井さんが描く薔薇はどんな薔薇なんだろう。 「簡単なスケッチ程度でいいのなら、今度青い薔薇を描くときにでも描いてみますよ。レインボーローズと他に適当に描くけど、それでいいですか?」 「個展の準備があるのにすいません。絵はいつでもいいので」 「いいえ。俺の絵に興味を持って貰えて嬉しいです」  そう言って薬井さんは小さく笑う。   「薬井さんの描く絵、好きですよ」  俺がそう言うと、薬井さんは恥ずかしそうに頬を染めた。
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