不可思議

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 俺は不可思議に息をハァハァと切らしていた。  洗面台の三面鏡の前で。顔からは水が滴っていた。  仕事帰りだったか。喪服のようにも見えるスーツを前だけ開けていた。  相当疲れているんだな。  俺はそう思い、居間に移動すると床に腰を下ろし、背の低いテレビを点けた。  ニュースが流れていた。 『本日死刑囚一名の執行が……』  不意に、ブゥンと外からエンジンの音が聞こえた。  ガタッと扉が開く音がした。  トトトトト、とアイドリングする音も聞こえる。  誰か来たのか。 『……死刑囚一名が執行されます』  テレビのニュースがそうアナウンスした。  途端に額に脂汗が滲んできた。  足音がコツコツコツコツコツコツと複数近づいてきた。  玄関の引き戸が勝手に開く。
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