不可思議

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 3人の咀嚼は乾いた音を鳴らしていた。  カッカッ、パリッ、ザクザクザク……。  瞳孔をこじ開けるように入り込んでくる橙の光。  それに反射する毛髪のような脚、触角、マクロに乱反射する複眼、胴体、そして――ポテトチップスのように砕けていく羽根、粉々に散る鱗粉。  サクサク  ポリポリ  乾いた音だけがやけに車内に響く。  不可思議な状況に俺は目を見開き腕や足、全身の筋肉を硬直させていた。  ガタンガタンと車が揺れる回数が多くなった。  それに伴いなんだろう。  一回ガタンと揺れるたびに三人の顔が、身体がこちらを向いてきている気がした。  目が合った。  んじゃない。  こちらを振り返ってくる。  とうに運転手の手から離れたハンドルは知らぬ顔でカーブに沿って車を走らせる。  ガタン、ガタン、と車が揺れるうちに俺は座席へと打ち付けられるような感覚を覚えていた。  それはもう逃げ場がなくても本能的に逃げるからだ。  だけど、3人の視線から逃れようとしてもこの車のシートはもはや鞭打つようにガタンガタンと俺の背中を殴打する。  ああ……ああ?  こちらを向ききった三人は、こちらに相対するだけで動きを止めなかった。  ガタン、ガタン、と徐に、何かの概念を刻むように、両手を差し出してくる……。  明らかにを差し出してきていた。  流石に冗談がきついぞ。  そもそもなんだ。季節外れのモンシロチョウの群れに突っ込んだと思ったら、通気口からそれが溢れ出してきて……。  もしこれが悪夢だとしても、これまでもこれからも観る夢の中では一番酷いに違いない。  目を閉じよう。  眠りから覚めよう。  そう思い立ち俺は目を瞑るけど、直ぐにまたあの揺れが襲って目を開ける。  目の前を、いや、視界を覆うのは白と黒のまばらな模様、模様、模様。 ――うぉえぇ  吐き気が込み上げてきた。  呼吸が荒くなり、肺が盛んに膨らんでは萎む。  でもやはり夢なのだ。  悪い夢なのだ。  背中にガンガンと打ち付ける痛みの残滓を感じながら、目の前には迫り来るモンシロチョウの破片がゆっくりと、ゆっくりと迫ってきていた。  羽、脚、触角……そしてちぎれた胴体に付いた黒い眼と、目が合った。
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