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一向に事態が変化しなかった。
そのために、俺は徐々に混乱と不安から呼びかけていた気力も、えも知れぬ何かへの抵抗する力も次第に失っていった。
あいつらの声は俺がもがけばもがくほど大きくなり、やがて力尽きるとその声もやんでいった。
疲れた。
そう思いながら視界の真ん中にずっと陣取っている太陽を睨む。
するとその視線に気づいたかのように空は、にわかに鈍色の雲でするすると覆われてきた。
俺は思わず目を擦った。
視界がぼやけてきたのだ。
いや、よくよく瞬きしてみると、霧だった。
生暖かい空気に実態の無いような霧が濃く立ち込めてくる。
視界に生えていた木々が見えなくなってきた。
俺は不意にはっと腕を頭上から払った。
さっき太陽を視界に捉えていた時には、いつの間にかあったと思う。
身体を動かせることに気づいて俺は、足をばたつかせながら状態を起こした。
四つ葉のクローバーのようだった。
俺達四人はきっかり四方に横たわっていたようだ。
四つ葉のクローバーの葉が綺麗に並ぶように、俺たちは横たわっていて、今は三人は三つ葉のそれだった。
三人は車の中で身につけていた服ではなかった。
それに気づいた時、俺はきっと瞳孔が開いたのだと思う。
真っ白の装束が、些か発光するように三人を包んでいた。
ふと、鼻腔の奥に不快で刺激のある臭いが細胞を刺激してきた。
ほぼ同時に瞳孔が開いてきたようで、目の前の光景はくっきりと網膜に写り、心拍数は上がり、口の中は粘液が渇いてくる。
三人の身体が膨れ始めた。
と同時に赤く変色していく。
数秒で赤から青くなり少し膨れた身体が萎んできたと思ったら、じわじわと三人の周囲に緑色がかったてらてらしている暗い色の液体が滲み出てきた。
途端、ズズ……と今度は三人の皮膚は黒くなってゆき、徐に生き物としての潤いも乾いてゆきカサカサとした皮膚が顕になると、途端にボロボロと崩れた。
三人の骨が、骸骨が死装束を着て横たわっている。
俺は、自らの脳を掻きむしりたいような嫌悪と、心身から飛び出そうな嗚咽を必死に飲み込もうとしていた。
無理だ。
おぇ、え。おぇぇ……。
きっと俺は白目をむいているのだろうか。
半ば意識を失いながら嘔吐した。
しかし、胃から何か出たような感覚は無い。
せいぜい胃液が出たぐらいか。
口の中の酸の刺激で視界が安定した。
無を嘔吐した地面に、黒いバラが砕けた花弁を異様にちりつもらせていた。
「ひっ……」
思わず力の無い声が出た。
なんだか、その砕けた黒いバラの花びらは違う何かにも見えたのだ。
アゲハ蝶……?
そう思うや、黒いバラだったアゲハ蝶は閉じていた羽をパタと広げた。
一匹、二匹、不可思議な――。
バササという音が聞こえた気がした。
俺は思わず目を瞑る。
顔をぽつぽつと蠢く無数の感覚に、気づけば覆われていた。
点の感覚が何百、何千、カサカサカサと張り付いている。
視界が覆われ、もう息もできない。
暗い世界の中で俺は、何も出来ないままのたうち回った。
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