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気を失っていたようだった。
不可思議な黒いアゲハ蝶の群れは――いや、黒いバラだったのか?――まるで俺を窒息させようとしていた、気がした。
目の前は暗い。
寒い。
俺は何かに横たわっているようだった。
背中にひんやりとした金属の冷たさを感じる。
ここはどこだ、と俺は頭を左右に動かして確認しようとする。
と、背中にガコンと振動を感じたと思ったら、徐々に自分を載せる何かが動いているのがわかった。
えらく無機質な天井が見えた。
少し高めの天井は白く塗られているようだった。
けれど……やたらと暗いな。雰囲気も、照明も。
俺は身体を起こした。
目の前も天井と同じような一様の壁がしんと立っている。
右斜め前を見ると、入口らしいガラス戸の両開きの扉が閉じているのが見えた。
さらに見渡右の方へ見渡した。
左は壁しか無かったから。
すると、目に入ってきた光景は、歪に脳にこびりついている記憶と一致した。
――火葬場……。
矩形の溝が彫られた鉄のパネルが三つ並んでいた。
その横には、スイッチもある。
歩いて近づくと、三つのパネルから同時に微かに音がした。
荘厳な静けさに滑り出て来るように、三本のレールの上を三台の無機質な板がすぅとせり出てきた。
あの時と、同じような光景だ。
固唾を飲んで、息が止まる。
骸がそれぞれ横たわっていた。
さっき、森の中で朽ちた三人の骨は綺麗だったが、焼かれた三人は半ば灰のように粉々の塵と化した骨粉がいくつもの骨の箇所に見られた。
そういえば、俺が起きたのって……。
ふと俺は、ここで目を覚ました時の事を思い出した。
恐る恐る、徐に右の方を見やる。
ここには俺一人しかいない。
開いたままの火葬炉が、こちらを見ていた。
「ごめん……なさぃ」
半ば声にならない声を絞り出して、俺は半身を捻っていた。
一目散に、建物の出口へと駆け出した。
死にたくない――!
俺は下衆だ。だけど、死にたくない。
呪い殺されたくない……。
建物から出る。
逃げるんだ。
そう思い地面を踏みしめた。
そう思った。
――え?
玄関口の黒の大理石は真っ黒で、深淵を湛えていた。
俺はつんのめって頭から落ちていった。
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